教師として悪口を言う子どもとどのように向き合うか
もし自分が悪口を言われた子どもだったら。
あるいは悪口を言われた子の親だったら。
やっぱり相手のことを許せないと思うでしょうか?
もっと厳しく叱られるべきだと思うでしょうか?
罰を受けるべきだと思うでしょうか?
言われた子の気持ちとして、そのように思うのは当然のことです。僕も娘がそういった目に遭ったら悲しいです。何度も同じようなことがあったら、担任(もしくは親)はどういう指導をしているのだろうと、懐疑的な思いを抱いてしまうかもしれません。
教師としての経験を思い返すと、友達との関わりの中で日常的に悪口を言ってしまう子は、学級に1人はいることが多いです。こうした子がいると、クラスの子どもたちからの訴えが後を絶ちません。やっぱり聞いてるだけでも不快な言葉ですし、ましてや直接言われたら我慢ならないでしょう。
だから、適切な対応をしないと、悪口を言う子を野放しにしてしまい、学級の子どもたちや保護者の方の信頼を失って学級が荒れてしまいます。担任としてそれだけは絶対に避けなければなりません。
➣彼(彼女)だけが悪い?
しかし、教師という立場から言わせていただくと、悪口を言う子だけが悪いと決めつけて厳しく指導するのは危険だと思っています。
例えば、過去に日本に来て間もない外国籍の子で、悪口を言ったり友達を押したり蹴ったり、トラブルを起こしまくる子がいました。まだ日本語を勉強し始めたばかりで、家では母国語を話しています。そんな子がどうして悪口を言ったりトラブルばかり起こしてしまうのか。
それはきっと、日本の学校生活で覚えたことです。最初は意味も分からず周りの子が使っていた悪い日本語を覚え、それを友達に言ってみると最初は笑ってくれたかもしれません。だから楽しくなってたくさん言っているうちに悪い習慣になってしまったとしたら。一概にその子だけが悪いと決めつけるのはおかしいんじゃないか、と僕は思ってしまいます。
みんなと過ごした期間が、もし、きれいな言葉であふれていたら。彼はきれいな言葉しか覚えなかったかもしれません。悪い言葉を覚えなくて済んだかもしれません。その子がそうならなかったのは、この学校生活のせいかもしれないのです。
たとえそれが、日本人であったとしてもです。僕たちはその子がどのような環境で育ってきたのかをはっきりとは知りません。その子が悪口を言ってしまう背景を詳しく知らない以上、表面的な指導しかできません。
もちろん悪口を言う子をかばうつもりもありません。言ったことはいけないことですから、毅然とした態度で指導をします。しかし、その子のことを深く知りもせずに指導しているだけでは、その場しのぎの指導に過ぎません。そのうちこちらの話を聞かなくなるでしょう。人は慣れる生き物ですから、厳しい言葉にも慣れてしまいます。そして「自分の話は何も聞いてもらえない」と先生への信頼を失っていくことにつながります。
仮にそれで言うことを聞くようになったとしても、それは、犬のしつけのような効果でしかないような気がします。結局担任が変われば、飼い主を失ったその子は元に戻ってしまいます。
➣本質的な理由を探る
ではどうするか。
ここからは(ここまでも、ですが)僕の独断と偏見で対応を考えていきます。
表面的な指導がダメなら、本質的な指導です。彼の信頼を勝ち取り、善の心の窓を全開にするしかありません。
「この先生には敵わない」
「先生を(友達を)信頼していいんだ」
そう思ってもらえるまで、あらゆる方法で心をつかんでいきます。
悪口を言う子には、まったく別の理由があるケースが多いです。学校や社会、家族あるいは自分自身への不満やストレス。それをうまく吐き出せずに友達への悪口となって出てしまっている場合が往々にしてあります。
そういった本質的な理由を引き出します。
なかなか根気のいる作業です。何せ小学生は、本人すら気付いていない場合も多くあります。でも、その子の背景や心の本質を見ようとしていれば、何かしら見えてきます。
それまで、じっくりと探り続けています。僕は教師の役割って、この「本質的な理由探し」じゃないかなと思っています。
もし、それをつかめたならしめたものです。本質的な理由に共感し、解決に向けて全力でサポートします。そういう子は、大体グチを言うのが好きです。それを聞いてあげたり、一緒にグチっちゃったりすれば仲間意識が芽生えていきます。
「勉強なんてつまんねぇ」
「うちの母ちゃん、いつもうるせぇんだよ」
「なんでこんなことしなきゃいけないんだよ」
小学生なら、本質的な理由なんてまだ可愛いものです。マンガ「Rookies」の川藤先生のごとく、一人ひとりの心をグイッとつかんでいきます。
そのうち先生のことを信頼し始めるでしょう。そして、気付いたら悪口を言わなくなっていた、という不思議な出来事が起きちゃったりするとかしないとか…^^;
そうした問題をうまく取り除いてあげられた子は、担任が変わっても落ち着いて学校生活を送ることができるようになりました。
➣周りの子の理解がすごーく大切
担任として
「関係作りが大切。じっくり構えていくぞ」
と思っていても、周りの子はそんな悠長なことは言ってられません。
「いち早くその子を何とかしてほしい」
「悪口をやめさせてほしい」
そう思うのが自然ですよね。
そこで思い出して欲しいのが「ジャイアン」です。
ジャイアンは乱暴で怖いイメージがあります。でも、友達と悪口を言い争ったり、ケンカをしたりするシーンはあまり見かけません。むしろ、口調は乱暴だけど、本当は心の優しい人なんだというイメージがあって、好きなキャラだという人さえいます。
ジャイアンがそんな愛されキャラでいられるのは、なぜでしょうか?
まず、ジャイアンには誰もケンカを売ろうとはしません。周りの子が「ジャイアンとは、そういう子なんだ」と、そのキャラクター性をとてつもなくお利口に理解しているのです。ジャイアンが何か悪さをしようとしても、周りの子は「またジャイアンが何かやってるわ」くらいにしか思っていません。
だからジャイアンは、非常に周りの子に救われています(偏見かもしれません^^;)。そして、友達のためにアツくなったり涙もろくなったりする描写で、視聴者のハートをゲットします。
「あー、こういう子いるなぁ」
と、つい思ってしまうナイスキャラですよね。
悪口を言いまくってしょうがない子にも、ジャイアン的なキャラとしての位置づけを与えてみたらどうでしょうか。その子の愛らしい面や人間味のある一面を見つけて、みんなに広げていくのです。
そして、みんなのイメージが
「イヤなところあるけど憎めないヤツ」
というようなキャラに確立されていくと、担任としてかなり救われるようになります。
悪口を言ってしまう子を変えていくよりも、周りの子が大人になる方が圧倒的に早かったりします。周りが悪口を相手にしない集団になると、悪口を言う子も次第にその相手を失います。それは、悪口を言う機会が減ることにつながります。
だから僕は、悪口を言ってしまう子と並行して周りの子を育てることも、とても重要だと考えています。
今年の学級もいろんなタイプの子どもたちがいます。今年の子どもたちはどんな集団となり、どんな成長を遂げていくのでしょうか?
その変化を間近で見守っていけるところが教師の特権であり醍醐味ですね。子どもたちの成長を楽しみにしていきたいと思います^^