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10万円給付金の経済効果を巡る「嘘」

昨年の10万円給付金について、その大半が貯蓄に回ったとする記事がいくつか出ている。

そういった調査は対象に偏りがあることが予想されるし、アンケート調査などでどこまで正確に分かるのか怪しいものだが、それはひとまずいいとしよう。

それであっても、7割が貯蓄だから3割の効果しかなかった、というのは余りにもお粗末な結論である。

マクロ経済学には「乗数効果」という概念がある。ある一定額の財政政策を行った場合に、それが波及も含めてどれ位の効果があるかを示す概念である。

その乗数効果は、再帰的な計算で求める。

ある額の財政政策を行い、仮に半分が消費に回ったとすると、直接的には政策規模の半分の効果である。しかし消費に回ったということは、使われるだけではなく受け取る人もいるのだ。受け取った人は、元々の財政政策の額に加えて受け取った分も所得が増えることになる。受け取った分も含めて消費が増えれば、またそれを受け取る人がいて・・・と、何度も繰り返し効果が表れることになる。

昨年の10万円給付金の財政規模を12兆円で、冒頭のニュースに従い、それよりも低い2割が消費に回ったとしよう。

経済への波及効果は、
12兆円×2割 +(12兆円×2割)×2割 +(12兆円×2割×2割)×2割+・・・であり、これを計算すると、15兆円になる。乗数効果としては1.25倍である。

もちろんこれは他の要素を排した点で非常に単純に計算したものであり、算出結果としても恐らくは実際より多く出ている。

しかし、財政政策の効果というのはこのように算出するもので、財政を考える上では非常に初歩的かつ常識的なことである。

特にコロナ禍での財政政策は給付金以外にも雇用調整助成金など様々あり、何がどのくらい効果があったか、正確に算出するのは難しい。

だが、せめて理論値くらい、出してみたらどうだ。そうでないと、全く意味のない数値になるばかりだし、今後の政策判断を誤らせる。何より「やはり景気回復は無理だ」などといった悲観的な予測が定着してしまっては、将来の経済成長にもマイナスになる。

乗数効果の基本的な算出方法に言及もせずに「効果がなかった」と結論付けるのは、理論や現実に基づかないイデオロギー的な主張と受け止めるしかない。

あるいは、意図的に嘘をばらまいていると言ったら言い過ぎなのだろうか。


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