地方のためにこそ金融政策を
地方への移住を進めるためのアピールとして、自然の豊かさや周囲の人々との触れ合いを強調する場面をよく見かける。
たしかに、それらに魅力を感じて移住する人もいるだろう。が、全体の総数として、そう多いわけではない。人口動態に影響を与える程のインパクトを「自然の豊かさ」はもたらさない。
地方にとって何が大切かというと、何と言っても経済的な豊かさだろう。
地方でも仕事があって、大都市との給与格差がそれほどなくて、それでいて自然が豊かで人々との触れ合いがあれば、移住してくる人は断然多くなるだろう。
移住だけではなく、大学などで都市部に出た人が帰ってくる可能性も高くなる。何せ、地方であっても経済的にやって行ける見通しが立てやすい。
そして、経済的な豊かさがもたらすものは、何も金銭だけではない。
例えば、今は大都市でしかツアーをしないアーティストが、地方都市でも公演するようになれば、地方でもイベントや音楽関係の仕事が増えるだろう。
同じようなことで、広告やメディア関係の仕事も増えるかもしれないし、大都市にしかなかったような業態の飲食店もできるかもしれない。ファッションブランドなども、人口が増えれば多くが出店できるかもしれない。
つまり、仕事の量だけでなく、質が広がるのだ。簡単に言えば、オモシロそうな仕事が地方でも出来るようになるのである。
そんな環境ができれば、ますます地方に若い人が増え、定着するようになる。大都市でなければできないという仕事がなくなれば、そして給与格差が少なくなれば、むしろわざわざ大都市を選ぶ必然性がなくなる。
そのためには地方の経済発展が必要だが、それは恐らく地方単独での努力では限界がある。地方では、金融政策ができないからだ。
金融政策は貨幣を発行する中央銀行にしかできない。中央銀行を動かすのは中央政府にしかできない。
財政政策は地方でも可能といえば可能だが、中央政府のように多額の債権を発行して中央銀行が引き受けて、というプランは立てられない。だから財政政策でも、結局は中央政府でなければ実効的にはできない。
つまり、地方のためにこそ、金融政策が必要なのである。