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持ち帰った団子

2011/1/25

調子のよろしくない息子を連れて(調子がよろしくないので連れてきたという方が正しい)、母の好きなお団子の3種類6本パックを買い、小手指に向かった。

所沢から西武池袋線に乗り換えた頃、息子の調子がやはりよろしくないことになり、小手指に着いてから、彼だけがUターンすることになった。

今日の息子は、朝から暗い目をしている。ちょっと不安な気持ちで、息子の後ろ姿を見送る。私はとても気持ちがふさぎ込んで、チロチロと微かに燃える炎も消えかかりそうな気持ちでバスに乗った。


病院に着き、母のためにホットミルクティーを買い、トイレを済ませて6階病棟に行くと、患者を入浴に連れていくスタッフから呼び止められた。副看護師長の女性から話があるとのことだった。


「F子さん(母)はピンピンしてるんですけどね」同室の患者さんのお一人が、今朝病室で嘔吐したとのこと。今の時季ノロウィルスなどの疑いもあるので、母のいる病室を隔離病室とし、今週の木曜日いっぱい、外部の人間との面談も、本人達の室外移動も禁止とのこと。食事も室内で摂り、入浴も禁止のようだ。

「今朝、ですか?」と思わず訊いてしまった。「そうです。ごめんなさいね、せっかく来ていただいて」

今までも似たようなケースはあったが、何かあれば必ず、私達娘の誰かの家に必ず事前に電話があるのが普通だった。

病院に到着する前にすでに気持ちが萎えていたので、チクリと釘を刺すような勢いも私の中になく、「じゃあ、今日は逢えないわけですね」と、弱気に引き下がるだけだった。

「母によろしく…」と言いかけて、「でも、来たことを言わない方がいいのかな、残念がるから…」と私が言うと、「そうですね。そういうこと(来なかったこと)にしておいていただけますか?」と、副看護師長は愛想笑いをする。

母はこの人のことが嫌いなのだという。「調子はいいけど、ズルイ人なのよ」と度々私に愚痴っていた。自分が母からよく思われていないことを、その人も知っているらしいとのこと。
なんとなく今日、母の気持ちが解った気がした。

仕方なく、エレベータに乗って1階に降りる。次のバスまではまだ、30分以上もある。病院内の花の写真などを撮っても、時間はたっぷり余る。
少し早めに外に出て、停留所のベンチで寒風に吹かれながらバスを待つ。

息子と私と母と、副看護師長、4人の人間の、ドロッとした厭な気持ちが、袋詰めになってショルダーバッグの中に入っている。

気分転換に、小手指でお茶を? と思いつつやめ、田無でお茶を? と思いつつやめ、家に帰って、まだいくらか明るいはずのダイニングでゆっくりお団子を食べようと思った。


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