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75歳になったら▶youco

「静子の日常」井上荒野・著を読みました。

ここのところ、ミステリが面白くて立て続けに読んでいたので、ちょっと軽めのスカッとした本でも読もうかな、と例の積読棚(整理しました!)から発掘した本です。
裏表紙には『果敢、痛快、エレガント。75歳の行動力に孫娘も舌を巻く』と書いてあります。まさに今の気分にぴったりかも、とビビッと来たのです。

井上荒野さん…わりと好きな作家さんで、10冊以上読んでいます。私の中では、男女の心の襞を丁寧に描く、というか、どろどろした面を余すところなく書く、みたいなイメージがあります。私がそういう本を選んでいただけかもしれませんが。

裏表紙の文を読んだ段階では、今までの井上作品と雰囲気が違うな、と思いましたが、それでも井上節でちょっとどろどろしたところを持つ75歳が登場するのでしょう、と思いきや。

いい意味で裏切られました。こんなお話も書くのですね。さすがプロ。

私が読んだことのある作家さんで表現するとしたら、瀬尾まいこさんや藤岡陽子さん、あるいは中島京子さん(この本の解説を書かれています)の雰囲気があります。

同じどろどろでも、雨上がり、充分に陽が差して温まった水たまりの中の、柔らかく温かい泥のような、そしてそれを底から素手ですくいあげるような、そんな読後感でした(伝わるかな…)。

この物語は、タイトル通り“静子”という75歳の女性が主人公です。息子夫婦・孫娘ひとりと同居する未亡人です。先頃夫を亡くし、ほどなく息子一家と同居することになったので、まだ同居期間は長くありません。息子夫婦は40代半ばくらい、孫娘は高校生です。

フィットネスクラブで水泳を習い、新聞配達の青年やその友達と公園でバーボン(孫娘の部屋から勝手に拝借してきた)を飲み、出会い系に嵌っている息子がデートしているレストランでしれっと食事をし、夫がいる頃から好きだった人に会いに行く…。本書の中で描かれる静子さんの日々は、列挙するとこんな感じです。

どうですか?アクティブで破天荒なおばあちゃんが目に浮かぶでしょう?

ところが本を読むと全く違います。事実を列挙したのに、あまりにもかけ離れた静子像が浮かび、自分でも驚きました。

75年も生きてきた方ですから、そりゃあいろんなことがありました。全部を知るわけではありませんが、きっとそうです。けれど静子さんは、どろどろとした感情や他人の悪意といったものを温かくすくいあげることができる人なのですね。しかし、安易に人助けをするだとか、悪人を糾弾するだとか、そういった大きな行動には出ません。

静子さんは、その時感じた気持ちを<私はこう感じているのだわ>とよく吟味し、その気持ちに振り回されることなく、自分が良かれと思う行動をとるのです。(その行動がまた、慎ましくかわいらしいのです。)

これが75歳の落ち着きなのか、元々の性格ゆえなのかはわかりませんが、私も75歳まで生きていたとしたら、こういう心持で生きていたいと思いました。

この投稿を読んでくださった方にぜひ読んでいただきたい本なので、内容をあまり書きすぎないよう、奥歯にものが挟まったような紹介文になってしまいましたが、お読みになればきっとあなたも、このおっとりとしたかわいらしい静子さんに魅了されることでしょう。

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【投稿者】youco

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