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恋の行き先。〈20〉

土曜日の夕方だった。
食材を買いに行きがてらブラブラしようと、バスでふもとの商店街に降りた。
そもそも料理が不得手でレパートリーが少ない自分には自炊は至難の業だった。
面倒くさい…と、思いながら書店で料理本を眺めていた。

くれはさん!と呼ばれた。
相沢だった。
相沢は申し訳無さそうに近づいて来た。
相沢「ちょうどよかった。お願いですからお詫びさせてください。食事しませんか?」

この人は悪気なく行動してしまう人なのかもしれない。
敦史のように気を配れる人間の方が少ないのだ。
引越しのときはとてもがんばってくれたし、梯子から落ちたときも助けてくれた。
私はわだかまりを捨てよう。
指輪をぎゅっと握った。

私「食事しましょうか。」

相沢「よかった!オススメのお店に行きましょう。」

こんなパッとしないローカル地域に洒落た店などあるのだろうか?
そういえば敦史は気取らなくて素敵なお店に連れて行ってくれたなと思い起こしていたら、
相沢オススメの店に着いたようだった。

テーブルに案内されて、店内を眺めてみると、中々落ち着いていて個室感もあり、いい店だと思った。

相沢「もしかして来た事あるかな?ここは一ノ瀬が合コンを企画した時に選んだ店だから。」
相沢は私を見ながらそう言った。

私「合コンなんて、やってたんですね。」
精一杯明るく言ってみたけれど、気持ちが沈んだのに気がついた。

白ワインを注がれて、私は飲んだ。
甘くて美味しいじゃない?
大丈夫、大丈夫。
食事をしながら飲んだ。
色々なオードブルが美味しかった。

相沢「一ノ瀬は中々のモテ男だから、くれはさん、ラッキーですよ。ちなみに俺は一ノ瀬で霞んで、フリーのままですけどね。」

そうなんだ。
でもそれが何だというのだろう。
段々と頭がぼんやりしてしまって、まずいなと思った。
気持ち悪くならないように、水も飲むようにした。
幸い、酔いだけが回って、吐いたりはしなかった。
何を食べたか、何を話したかはっきりわからない。
陽気になったけれど、ふらついてしまった。

相沢「もしかしてお酒、弱かったかな?そろそろ送ろうか。」
相沢は会計を済ますと、ふらつく私の肩を抱いた。

相沢「大丈夫?タクシー拾うね。」

相沢は私を自分に寄り掛からせるようにして、座席に座らせた。
相沢は私の顔にかかる髪を払い覗き込んでいた。

相沢「頼っていいからね。」
相沢は微笑んでいた。

高台町の家に着くと、相沢は私を抱き上げようとした。
すると、勢いよく玄関ドアが開いた。
「相沢!」
敦史だった。
敦史「飲ませたのか!?」

相沢は敦史に驚きながら、
「食事したんだよ!ディナーにはワインだろ?普通じゃない?何、怒ってんの?お前が居ないからだろ?くれはちゃんは寂しいんだよ!」

敦史が掴みかかる前に私は最後の力を振り絞って、鞄で相沢を殴り、その場に倒れてしまった。
相沢は頭を押さえてしゃがみ込んだ。

つづく

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