「オレンジの味」ってどんな味?コーヒーのフレーバーノートを紐解く
一杯のコーヒーを飲むという体験。それは本来、見える色、触れる形、そして味わいに伴うフレーバーで満たされています。しかしながら、日常生活の忙しさに追われる中で、これらの感覚の細やかなニュアンスを見過ごしてしまうことも少なくありません。
そこで、ちょっと時間をとって、コーヒーから感じたフレーバーを「言葉」にしてみるのはいかがでしょうか。一見、単純な行為に思えるかもしれませんが、この取り組みはコーヒーに隠された豊かな世界を解き明かす鍵となり得ます。
フレーバーノートを読み解く
とある豆のパッケージに記載されている、こんなフレーバーノート。
こういったテキストを読むだけでは、あまり味のイメージが思い浮かばなかった経験はありませんか? もしくは、想像していたものと実際の味わいが違うと感じたことはないでしょうか。
もしかしたら、「自分の味覚や嗅覚が鈍いのかな……」と心配になってしまう人もいるかもしれませんね。でも、大丈夫。「表現の方法」を少し学ぶだけで、それらの悩みは解決します。
言葉にすることで深まる味への解像度
例えば、コーヒーの原材料にはオレンジが含まれていないのに、味わいの表現において「オレンジ」という言葉が使われるのはなぜでしょう? ここでヒントになるのが、バリスタのトレーニングで繰り広げられるこんな会話です。
多くの方は「オレンジ」という単語を見聞きすると、オレンジ色をした果物そのものの形状を思い浮かべるかと思います。しかし、フレーバーノートにおける「オレンジ」という表現は、「オレンジの味」の特徴を意味します。
では、「オレンジの味」を、もっと具体的な言葉に置き換えるとどうなるでしょう? バリスタトレーニングの実例を見てみましょう。
いかがでしょう。味わいを言葉に紐解いていく感覚が少しは掴めたでしょうか。
不在のものを想像・連想し、言葉にすることで、共感できる不思議さと面白さ。フレーバーを表現する行為は、私たちの感覚を刺激し、創造力をかき立ててくれます。
味わいの「記録」は「記憶」を超えて
オレンジのフレーバーを表現するには、まず、実際にオレンジを食べる経験が必要です。その経験から味覚や香りの記憶が引き出されるからです。
ただし、その記憶をコーヒーのフレーバー表現に応用するには、「オレンジの味」を言葉で表現しておく経験も必要になります。したがって、コーヒーの味わいの表現を増やしたい場合は、日常的に食べるものの特徴を言葉にする習慣をつけてみるのがおすすめです。
人は一日の出来事の半分以上を翌日には忘れてしまうと言われています。味わいの記憶も同様。何かを味わったとき、その感覚を詳しく記録しておくことで、後から振り返り、再評価することが可能になります。
果物一つ取っても、「形」「色」「味」「質感」など、いろいろな評価軸があります。様々な角度からその特徴を分析し、記録してみましょう。それを積み重ねるうちに、コーヒーを味わったときにも「あの果物の味に似ている」というふうに、フレーバーの要素を発見することができるようになります。
新たな言語を学ぶように、フレーバーの世界を広げよう
フレーバーノートの意図を理解し、味わいの表現を豊かにすることは、新しい言語を学ぶようなものです。理屈がわかると、語彙が増え、食べ物や飲み物を味わう経験が一層深く、豊かなものになります。
こうして味わいに向き合う経験を重ねることで、味覚は一時的な感覚を超え、記憶や感情に深く刻まれる体験へと昇華します。バリスタやロースターにとってそれは、お客様に提供するコーヒーの感じ方、理解の仕方、価値の見出し方を改めて考え、研ぎ澄ませる取り組みでもあります。
今回はKurasu社内で開催された勉強会の様子と共に、フレーバーの表現について書いてみました。一杯のコーヒーに秘められた豊かな味わい、その色彩豊かな世界が、よりたくさんの方に届きますように。