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【旅log】ヒマラヤの運転免許試験センター〜ネパール〜
みなさん、こんにちは。海月です🪼
社会不適合者の私は、現実逃避のためにお金と時間の許す限り旅に出たいと思っています。精神的亡命です。
ネパール1人旅の感想をいくつかの記事に分けて投稿していきたいと思います。
ヒマラヤの運転免許試験センター
旅行中にタクシーは使わない主義の私。
基本的に客引きがウザいので近寄らないし目も合わせない。相場が分かっていれば値段を交渉しなくもないが、調べた所で観光客によるネット情報程度しか分からないので頑張って調べる気もない。
ぼったくられたくも無いし、不当な値引きも要求したく無い。そもそも社会不適合者なので出来るだけ人とコミュニケーションを取りたくない。疲れちゃうもの。
だから歩く。遠出なら地元のバスを利用する。
その方が現地を感じられる気がする…、というのは強がりで、体力の代わりに気力の温存を選ぶ消去法が私の人生。
この日は、首都カトマンズから東に約12kmのバクタプルという街に向かうべく、街で1番大きなバスターミナルへ向かって歩いていた。
バクタプルは「ジュージュー・ダウ」つまり「ヨーグルトの王様」と呼ばれるヨーグルトで有名な古都だ。乳製品の生産が盛んなネパールは、日本で有名なブルガリアにも全く引けを取らない超ヨーグルト大国。
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気に入ったらカップじゃなくて
壺入りのサイズを買ってね⚱️」
使い捨ての素焼きのカップに感じられる1000年の歴史と、ネパールらしい優しくシンプルな甘さを求めて、本日はバス移動の日。
通勤と通学の人でごった返す首都のターミナルで、バクタプル行きの大きな古いバスを見つけた。シートからクッションが飛び出して鉄板が見えている。痛くなるかな?お尻に覚悟を促して最前列の2人掛けシートに腰掛ける。
・いつどこで降りれば良いのか
・バス代は幾ら掛かるのか
・何時にカトマンズに帰ってくるのか
何も分からずに乗った。辛い日常を忘れるためにネパールに来たのだから、仕事を思い出すような調査や計画といった行動は避けると決めた。
子供のように心の赴くままに進むことにする。
バスに乗客は私だけ。早く出発しないかな。
流石の私にもこれ位は聞ける。
「あとどれ位で出発しますかー?」
バスの座席が埋まってきた。ターミナル前の学校はちょうど授業が終わったらしく、学生がぞろぞろと出て来ては、各々の目的地行きのバスに乗り込む。
私のバスにも沢山乗り込んで来た。一人、二人、三人…。私の顔をチラッと見ては、既に混んでいる奥の座席の方へ迷わず進んでいく。
外国人観光客なんて意識しない国もたくさんあるが、ネパールは違うようだ。決して敵意は感じないけれど。
然りげ無く人間観察をしていると、乗り込む乗客の波の中で10代後半位の女の子と目が合った。瞬時にロックオンされるような強い視線を感じた。悪い視線じゃなくて、とても熱い視線。
ムーナは、前の人を抜かす勢いで移動し皆が避けてきた私の隣にドカッと腰を下ろした。
車掌さんがネパール語で叫ぶ。
恐らく、満員になったのでもう発車するという事だろう。
バスが発車して暫くは、ムーナと言葉を交わさなかった。
コミュニケーションを避けたい私の習性として、窓の外を熱心に眺めるように振る舞う癖がある。話しかけられないために身に付けた術が有効であることは実証できたが、結局のところ本当に話しかけたいのは私の方だった。
「ごめん、教えて。バス代って幾らなの?」
「どこまで行くの?」
「バクタプルのダルバール広場に行きたいんだけれど、何処で降りれば良いかも教えて欲しい」
「私はバクタプルに住んでるの!あなたは何処から来たの?」
「日本。知ってる?」
「もちろん! あなたは学生?」
「ううん、働いてるよ。観光でこっちに来ているの。あなたは?」
「私は19歳で学生!でもこの間結婚したんだよ!さっき朝の授業が終わったから今から仕事なんだ!」
「勉強も結婚も仕事もしているの?凄い。」
「そんな事ないよ!ねぇ、バス代は私に任せて!私の職場に少しだけ遊びに来ない?その後で目的地にもちゃんと送ってあげるから!」
これを皮切りに、スピードを上げたバスの若く軽快に話し続けるルーナ。自分の結婚式のことや、学校のことや、旅行のことや、まるで私達がずっと前から友達かのように話し続けた。最初に感じた視線の通りに情熱的な魂。
私と話をしながらも彼女は周囲への気配りを忘れなかった。
バスの揺れが酷くなると、側で母親と一緒に立っていた3歳位の子供を自分の両膝の間に誘導し、慣れた脚つきでその小さな身体を支えてあげていた。そんな社会的な彼女の様子に、大きな信頼を感じた。
日頃から過剰に反応し続ける私の危険察知センサーも、ルーナ相手には全く作動しない。そんなに長く滞在する必要はないとのことなので彼女の職場に行ってみることにした。
日本円で約25円のバス代を奢ってもらい、手を繋いで引っ張って連れてこられたのは彼女の職場である運転免許試験センター。
バスを降りてから職場までの道すがら、草花や畑の野菜を観察したりして子供の頃に祖父と散歩をした時のように穏やかな時間だった。
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正直、何故ルーナが私を連れて来たかったのかが分からなかった。外国人が珍しいからなのか。紹介したい人やイベントがあるのか。退屈な仕事の暇つぶしなのか。彼女の職場まで来たらそれが分かると思っていた。
しかし、私の予想とは裏腹に、ルーナは特別な様子は見せず同僚と挨拶を交わして、恐らくいつも通りの手順でお昼ご飯の準備をし始めた。彼女の同僚達も見知らぬ外人に対して日常の温かい挨拶を投げてくれるだけ。
「こんにちは。どこから来たの?ゆっくりしていってね〜。」
彼女が経理として働く事務室の隣にあるキッチンの大きな鍋には、カレーが入っていた。従業員はここで毎日お昼を食べるのだろう。
ルーナは、何も言わずテキパキとお皿に料理を盛り付け、手のひらサイズのボウルにスープを入れて私に寄越した。
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「私、手で食事をしたことが無いの。どうすれば良いか教えてくれる?」
もし私が、スプーンの使い方が分からないから教えて欲しいなんて聞かれたら一瞬は困惑してしまうだろう。でもルーナは何のリアクションもせず「スープをお米にかけて、右手でお米とおかずを混ぜて口に運べばいいよ」と教えてくれた。
彼女の同僚らしき2人の男性と一緒に、4人で昼食を摂る。
ダラダラと食事をする訳じゃなくて、会話を楽しみながらテキパキと仕事の準備をする感じ。私のぎこちない手食を弄りもしないし、日本について好奇心旺盛に質問したりもしない。
ただ、人間が普通に集まって、話をして、食事をして、働く準備をしていた。私は、この「普通」に安心を覚えて、この空間が好きだった。
彼女は私を昼食に誘ってくれただけだったのかな。学校で一緒にお弁当を食べる相手を探すように。
実際、その日のルーナは忙しかった。
地元の警察官の一斉講習があるらしく、険しい表情のオフィサー達が40人程いた。
ランチが終わると、彼女は早速仕事に取り掛かる。時々私の顔をみてニッコリと微笑んでくれるものの会話をする余裕は無さそうだ。
私はセンター内を勝手に歩き回り、飼われていたニワトリを観察したり、そこら辺の人と立ち話をしたりした。
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お昼ご飯の時間を含めて約1時間弱ほどセンターに滞在した後、私から切り出した訳でもルーナから提案された訳でもなく、本来の私の目的地に向けて移動することにした。ルーナの同僚が現地まで送ってくれるらしい。
ルーナに感謝を伝えると、日本に旅行することがあれば案内してねと言われた。別れ方も普通だった。またすぐ会うかのように温かかった。
運転免許試験センター発/試験官運転のバイクにノーヘルで乗っけてもらい、ヨーグルトの王様の街へ向かう。
さぁ、子供のように心の赴くままに進もう。
普通に生きよう。