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対話がもたらす癒し『夜明けのすべて』(水鈴社)感想

瀬尾まいこさんの『夜明けのすべて』を読みました。今日は読書感想文。

一言で説明すると、困難さを抱えた若者ふたりのお話。

藤沢さん(女性)はPMS(月経前症候群)でイライラが抑えられなくなってしまう。山添くん(男性)はパニック障害で電車に乗れないなどの悲しみがある。

そんなふたりが同志のようになっていくお話。

僕はメンタルダウンして3年間休職して、その後復職しました。でも、「とりあえず仕事はできているけどなんだか苦しい」という気持ちがしばらく続きました。

だから、病気を抱えながら、なんとか日々をやっていこうとする2人の苦しみに「わかる…」という気持ちになりました。

特に山添くんは、昔は仕事が大好きで、仲間とスポーツもしていて、彼女もいて、ジムにも通っていた。でも、パニック障害になってすべてが一変した。電車に乗れなくなって、入れないお店もできてしまう。

あー、昔に戻りたいな。病気がなかった頃の自分はもっと自由だった。

パニック障害がうつに移行してしまうのは怖いな。だから今の生活でも満足したほうがいいのだろうか。ただ、なんだかつまんないな。

自分はこの先、10年、20年とこんな生き方を続けるしかないのだろうか。

過去、未来、現在に対するさまざまな自動思考。とても繊細に描かれていると感じました。

瀬尾まいこさんの魅力は食事と対話だと思う

瀬尾まいこさんの作品は『そして、バトンは渡された』もすごくよかった。

特に、料理と食事のシーンが印象的で。本当の親子でなくても、悲しいことがあっても、おいしいごはんというのは暮らしの土台だなぁと感じます。

今回の『夜明けのすべて』は、どちらかというと「対話」がメイン。

困難を抱えた2人の対話。優しい職場の人たちとの対話。

瀬尾まいこさんの作品は、ちょっとした異常さが盛り込まれる。

父親が父親をやめてしまったり、苗字が4回も変わったり、突然彼氏でもない人の髪を切り出したり。

でも、基本的にあたたかさと優しさがあって。困難を抱えた人々が、距離を取ったり、距離を詰めたりしながら、対話の中で癒し癒されていく。

いつか聞いてみたい。どうやって、対話が形作られていくのだろう。

おわりに

『夜明けのすべて』は軽やかな室内音楽のような作品でした。

『そして、バトンは渡された』は複雑な交響曲のような作品でした。

これからもいろんな小説に触れて、味わっていきたいです。

読んでいただき、ありがとうございました。

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