見出し画像

ナポリ下町の最安値B&Bのオーナー・チーロと素晴らしくテキトーな仕事ぶり

僕が約1ヶ月ほど宿泊したいと伝えると、B&Bのオーナーのチーロは紙とペンを取り出して「Giapponese(日本人)」というタイトルでメモをとり始めた。

タイトルの雑さに思わず笑ってしまったが本人はいたって真剣。まるまる1ヶ月同じ部屋を確保できなかったため、数日おきに部屋を移動しなければならないらしい。

チーロはスマホで予約帳の管理画面をいじりながら、1日ずつ「Giapponese」のメモ帳に僕が泊まる部屋を書き留めている。ひととおり書き終えるとメモを指差しながら「この日は一番安いオレンジの部屋。で、この日はオレンジの部屋は埋まってるから次に安いブルーの部屋。わかった?」と丁寧に説明してくれた。

僕がわかりましたと言うとチーロはバチンとウィンクをした。チーロは両目の周りにできたてホヤホヤのアザをこさえていて、くっきりとサングラスの形にアザができている。きっと前を見ずに歩いて壁にでもぶつかったんだろうと思った。出会ったばかりのおじさんだったが、かなりテキトーでそそっかしいことだけはわかるのだ。

ちなみに「オレンジの部屋」「ブルーの部屋」というのは通称ではなくこのB&Bのオフィシャルな名称で、初日にオレンジの部屋に案内されたときは「マジでオレンジだな…」とかなりビビった。

誰がどう見てもオレンジの部屋
覚悟していたが、ブルーの部屋は白ベースで助かった

ここから僕とチーロのB&B生活が始まった。チーロは客室のひとつ上のフロアに住んでいて、朝になって僕が部屋から出る「ガチャッ」という音を聞きつけるとすっ飛んできて、マキネッタで淹れたコーヒーをふるまってくれる。

こっちではほとんどの家庭にマキネッタがある

コーヒーを飲み終えて使った食器を洗っていると、それを見たチーロが両手を横に振りながら「ワシャワシャワシャ!」と言っている。声色とジェスチャーからして「洗わなくていいよ」の意味だと思いお言葉に甘えた。あとからモニちゃんに「ワシャワシャワシャってどういう意味かわかる?」ときいたら少し考えて「Lasciali sta(放っておいて)じゃないかな?」と教えてくれた。絶対それだ!と謎が解けてスッキリしたが、この雑なヒントで正解を導き出したモニちゃんのイタリア語能力の成長には恐れ入った。

マキネッタを沸かす間バルコニーを眺めるチーロ

チーロのB&Bは1泊50ユーロからで、この地域では最安値だと思われる。ところが、イタリアへ行く前に日本国内からAirbnbやBooking.comでナポリに50ユーロの宿を探すのはほぼ無理だった。

僕は心理的には日本にいるうちに宿を確定させたほうが安心だったのだが、モニちゃんは「ナポリの親戚たちが良い条件の宿を探してくれる気がするから、焦ってネットで予約しないほうがいいよ」と言うので、その言葉を信じた結果、モニちゃんの従兄弟のジャンカルロがこのB&Bを見つけてくれたのだった。

そんなこんなで地域最安値のB&Bということもありクオリティには期待していなかったのだが、これがなかなか悪くないのだ。

部屋は個室だし、トイレとシャワーもオレンジの部屋専用のバスルームが用意されている。部屋のベッドメイキングもされてシーツはパリパリ、タオルも大中小の3枚を用意してくれる。さらにチップを置いても回収されていない。むしろチップとして置いた2ユーロ硬貨は「落とし物ですよ」と言わんばかりに僕のポーチの中にしまわれていた。調べるとイタリアは高級ホテルでもない限りチップは必要ないらしい。飲食店では積極的にチップ回収しに来るのに。

とにかく、期待してなかっただけに地域最安値でこのクオリティのサービスを受けられるなんてラッキーだな!…と思ったのもつかの間、3泊目以降になるとベッドメイキングしてくれない日の方が多くなった。

僕が時差の関係で午前中は仕事してることが多いので、毎日ドアをノックして「今日は掃除する?」と聞くのが面倒くさくなったのだろう。まあ、毎日掃除してもらうほど汚れてないのでいいんだけど。

そういえばB&Bに泊まる初日にチーロから結構な圧力で「日本語か英語で口コミ書いてくれよ!!」と迫られた。悪くない宿なのでさっさと口コミを書いてもいいのだが、口コミを書いた瞬間からチーロのサービスクオリティが落ちるのでは?とちょっと思った。やはり口コミを書くのはこの旅が終わってからにしよう。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集