エッセー 「70年代の熱き走り屋魂とクルマカルチャーを描いた青春ロードムービーの ”白熱 デッドヒート”」
この映画の原作者である田中光二はSFをメインジャンルとする作家だが、自身が無類のクルマ好きということもあり、クルマを題材した冒険小説を数多く執筆している。
この作品は、その中の一冊「白熱 デッドヒート」を1977年に東宝が映画化したものだ。
映画の脚本は原作から大幅に書き換えられているので、下記に「原作」の粗筋を記す。
『ガソリンスタンドの店員として働きながらクルマにその青春のすべてを注ぎ込む主人公・新城卓は、自ら手を加えたチェリーX1-Rで夜な夜なシグナルグランプリに興じる街道レーサーである。
ある晩、恋人の沙智を助手席に乗せ、バイパスを流していた卓は、眩いばからゴールドメタリックのケンメリ・スカイラインGT(ファントム)に遭遇する。日頃から金持ちのボンボンや特権階級のアホどもに虐げられている卓は、その趣味の悪いケンメリGTにシグナルグランプリを仕掛けるが、その圧倒的な動力性(かなりのチューンドマシン)の差に完敗する。
それから数日後、敗北を喫して以来ゴールドのケンメリのことが頭から離れない卓の人生が激変する。数週間前に常連の金持ちバカ息子が卓に「これでクルマでも買いな」と嘲るように投げ捨てていった宝くじが当選し、一等賞金の1000万円(現在の貨幣価値で約3倍の3,000万円ほど)が転がりこんだのである。
早速仕事を辞め、恋人の沙智に手切れ金300万円を手渡した卓は、HKS製ボルトオンターボで武装したRA22型セリカGT LB(新車で購入)に乗り込み、かつての雪辱を晴らすべく黄金のケンメリスカGを求め、あてのない旅に出る』。
と、いうのが大筋のストーリーだが、作者がクルマに対し造詣が深いこともあり、文中に盛り込まれる70年代走り屋カルチャーの描写は半端なく濃い。
主人公の卓が乗るセリカターボは夢の「DOHC・ターボ」エンジン搭載車であり、当時は走り屋のすべてが憧れた究極のドリームマシンであった。
宝くじの当選金というあぶく銭を自らの野望実現のために何の躊躇いもなく投資する卓の姿に、一途で純粋だった当時の走り屋の姿がオーバーラップする。
映画版で主役の卓を演じるのは江藤潤。正直ミスキャスト。卓のイメージはやはりリーゼント、いくらなんでもイガグリ頭の江藤潤はありえない。
ゴールドに全塗装された謎のフルチューンドケンメリ"ファントム"のドライバー役には沖雅也。
そして卓の恋人・沙智役には当時デビューしたばかりの古手川祐子。いかにもデビューしたての新人女優という雰囲気で、ほっぺたなんかパンパンである。
そして、旅先で卓と出会う女子大生風の女役の風吹ジュン、特有のアンニュで小悪魔的なムードが当時の女子大生の雰囲気がよく出ている。
その他、ファントムの重要な手掛かりとなる鼻っ柱の強い女子大生役として友情出演している秋野暢子、退職金でRX3サバンナGT買って日本中を放浪しているわけのわからんオッサン役の長門裕之など、個性的な演技派が脇を固めている。
江藤潤を除けばなかなかの俳優陣、そして内容的にもそこそこの青春ロードムービーと言える作品に仕上がっている。DVDも発売されているので、70年代のクルマ文化、若者文化を垣間見たい向きにはお勧めである。
しかし、繰り返すが、ともかくこの作品は原作が最高。原作者 田中光二のクルマに対する熱い気持ちを充分に感じ取ることができる。必読である。