【一日一題 木曜更新】 オススメの祟り
山陽新聞の「一日一題」が大好きな岡山在住の人間が、勝手に自分の「一日一題」を新聞と同様800字以内で書き、週に1度木曜日に更新します。ほらいつか岡山在住ライターとして一日一題から依頼が来るかもしれないし……し…?
おすすめの本は? に答えるのがとても苦手だ。
数年前、友人から2週間ほどの入院におすすめの本はないと聞かれ、そりゃあもう悩んだ。命に別条のない治療入院とはいえ、病院という場で読むにはどんな本が相応しいのだろう。
笑えるもの? いや、笑いのツボはもう人それぞれだし。自分がこれ最高と渡した本が滑った時のことを考えると。
体調が悪いわけではなさそうだから、いっそのことじっくり向き合える古典? いやまて、古典には死生観が絡むものが多いではないか、病床でそんなうっとおしいものを読まなくても。
新刊の小説?いやいや小説こそ好みが色濃い。いつまでたっても没入できない小説を「読まなきゃ」と意地になる時の苦痛たるや。
もっとライトな感じの、こう。ほら何かエッセイとか。
そんなことを考えながらアレコレ迷ううちに、友人はいつのまにか退院の日を迎えてタイムオーバー。何をやっているんだろう、自分。
「最近読んだ本で面白かったのは?」という質問なら大歓迎なのに。自分が面白かった本を回答するだけのことで、相手が読もうが読まいが関係ない。でも「おすすめは?」は違う。自分が読んだ本をおすすめするなんて、まるで何かしらの思想を押し付けるようで緊張してしまう。
さらに世の中には、おすすめどころか気軽に「本を贈る」人たちがいる。「本を贈る」なんて行為はまるで「おすすめ」界のラスボス。読まなきゃという重圧に、贈り主に「感想を述べる」という言語化ミッションまでも付録になっていて心臓が止まりそう。
でもある時、「あげたいだけ。自己満足」と笑う贈り主に出会い、私は心持ちがラクになった。
これいいよとおすすめの言葉を添えるのは愛。
ありがとうと快く受け取るのも愛。
さらにこの世には「積読」という素晴らしく怠惰で優美な言葉がある。
三省堂国語辞典によると
【つん どく[積ん読]名 (略) 明治時代からある ことば】
存外歴史が古い。これを知って以来、私はオススメの祟りから解き放たれ、「あれ読んだ?」の圧に「積読中なの」と文雅に念を返している。