
人材獲得ラプソディ
会社の基本機能として以下の6要素がどれも欠けることなく揃っていること、そして、それらがガッチリと噛み合って機能していること、何かを成し遂げる確率をあげるにはこれらが最低要件っぽいよね、ってことは前回の記事で触れました。
ビジョン + 合意形成 + 資源 + 実現能力 + 実行計画 + 動機付け
そして、これら6要素のうち「ビジョン」と「合意形成」に関しても過去の記事でゴチャゴチャと記しています。
というわけで今回は、「資源」にフォーカスしてみようと思います。
まずビジネス界隈における「資源」の定義は、なんだか時代を追うごとに変容しているようですが、2024年の時点では以下のような解釈で違和感なさそうですよね。
ヒト(人材)
モノ(設備や技術)
カネ(資金)
情報(データや知識)
ボクはこの4つに「時間」も加えるべきじゃあないのかと考えています。資源として時間を確保できないなら、ヒトもモノもカネも情報も動かすことができないでしょうよ、というのがその理由です。「時間」を加え、それを意識的に確保することが肝要ではないでしょうかねぇ、と。
まあそのことは今後別の記事で触れるとして、とりあえずはヒト・モノ・カネ・情報、この4つがビジネスを動かすための資源だということで先に進みます。
で、ヒト・モノ・カネ・情報を十把一絡げにすることはちょっと乱暴なので、本記事では資源からさらに一階層下がって「ヒト」にフォーカス。
ヒトのライフサイクル
ビジネス資源のうち最重要である「ヒト」、そのヒトが会社と関わりはじめ、その関わりが良い状態になるまでのライフサイクルを、ヒト視点且つベストケースシナリオ前提で描いてみるならこんなカンジになりそう。
ヒト視点からのヒト資源のライフサイクル
その会社を認知する
その会社に興味を持つ
応募する
入社する
従業員としてその会社を体験する
帰属意識や忠誠心が芽生える
それを会社視点に切り替えてみたのが次。
会社視点からのヒト資源のライフサイクル
自社の存在を認知してもらう
自社に興味を持ってもらう
応募してもらう
入社してもらう
従業員体験が良いもので在り続けるように継続的改善する
帰属意識や忠誠心が芽生え根付くよう継続的に取り組む
ん?なんだかマーケティングにおけるカスタマージャーニーと酷似してんな。
会社視点からのカスタマージャーニー
認知(AWARENESS):自社の製品・サービスの存在に気付いてもらう
興味(INTEREST):自社の製品・サービスに興味を持ってもらう
決断(DESISION):キャンペーンや特別なオファーで購入の意思決定を促す
購入(PURCHASE):ストレスなくスムーズな購入のプロセスを演出
購入後(POST-PURCHASE):その製品・サービスの利用後の満足度調査やフィードバックを得る
ロイヤリティ(LOYALTY):顧客の意見を反映した改善やポイントや特典プログラムなどの導入
なるほどね。「どうすれば自社にジョイン(入社)してもらえるか」は「どうすれば製品・サービスを購入してもらえるか」と同じでマーケティング的アプローチで対応すべきは自明ってことだよね。
ライフサイクルの各ステージにおける留意点
次に「ヒト」のライフサイクルの各ステージにおける演出、自社視点からどう対応するのがよさそう?について以下に整理してみます。
自社の存在を認知してもらう
自社に興味を持ってもらう
応募してもらう
入社してもらう
従業員体験が良いもので在り続けるように継続的改善する
帰属意識や忠誠心が芽生え根付くよう継続的に取り組む
イメージしやすいように、再度マーケティング視点に戻して例えてみるなら、以下のようなシナリオになる。
認知(AWARENESS):オフィスの近くに新しいドーナツ屋ができたことをSNSで知った
興味(INTEREST):SNSによればどうやら「生ドーナツ」という新しいカテゴリらしい。おお、食べたことない。食べてみたい。
決断(DESISION):お!アプリDLで初回購入10%のディスカウントを適用してくれるらしい。お得じゃん。行こ!
購入(PURCHASE):アプリで事前予約・支払済ませてたから、お店では受け取るだけ。並ぶ必要もなくメチャメチャスムースだった。
購入後(POST-PURCHASE):味とか購入体験どうでしたか、ってアンケート届いてた。ピスタチオ味欲しいってリクエストしとこ。
ロイヤリティ(LOYALTY):アプリに次回購入時5%ディスカウントクーポンが届いた。購入回数・金額が増えると会員ステータスとディスカウントレートも上がるらしい。いいねぇ。
※上記シナリオにおける離脱ポイント(CHURN POINTS)
ドーナツ屋ができたことを知ったとしても、それに興味が湧かないようなら食べてみようかの検討のテーブルにすら載らないかもしれない。
興味が湧いても、なんらかのトリガーがなければ店に行ってみようという判断には至らないかもしれない。
店に行ってみたとしても、行列が長すぎたり、支払方法が現金だけだったりすると購入には至らないかもしれない。
購入したとしても、美味しくなければ二度とその店にはいかないかもしれない。
美味しかったとしても、リピーターにとってのメリットが低ければ競合他店へ移ってしまうかもしれない。
こういったいくつもの離脱ポイントをうまくクリアしなければ、ロイヤルカスタマーを獲得できないよね、ってのが上記ドーナツ屋さんの例。そしてそれは、「お客さまを獲得する」フェイズと「お客さまを維持する」フェイズの2段階に分けてどうアプローチするかを考えるのがよさそう。獲得と維持ではそれぞれの目的が全く異なるわけだから。
【顧客獲得~カスタマーアクイジション】
認知(AWARENESS):自社の製品・サービスの存在に気付いてもらう
興味(INTEREST):自社の製品・サービスに興味を持ってもらう
決断(DESISION):キャンペーンや特別なオファーで購入の意思決定を促す
購入(PURCHASE):ストレスなくスムーズな購入のプロセスを演出
【顧客維持~カスタマーリテンション】
購入後(POST-PURCHASE):その製品・サービスの利用後の満足度調査やフィードバックを得る
ロイヤリティ(LOYALTY):顧客の意見を反映した改善やポイントや特典プログラムなどの導入
そして、上記を改めて人事部門視点に置き換えると1~4が人材獲得活動、5・6が人材維持活動ということになるのでしょう。
【人材獲得~タレントアクイジション】
自社の存在を認知してもらうには?
自社に興味を持ってもらうには?
応募してもらうには?
入社してもらうには?
離脱ポイント(CHURN POINTS)
自社の存在を知ってもらっても、それに興味が湧かないようなら応募してみようかの検討のテーブルにすら載らないかもしれない。
興味が湧いても、応募プロセスが煩雑だったり冗長だったりすると、応募してみようという判断には至らないかもしれない。
応募してみたとしても、事前に確認した詳細情報が正しくなかったり、採用プロセスが冗長だったり、面接官の対応が悪かったりすると入社には至らないかもしれない。
【人材維持~エンプロイーリテンション】
入社後の体験が良いもので在り続けるためには?
帰属意識や忠誠心を芽生えさせるためには?
離脱ポイント(CHURN POINTS)
入社したとしても、事前に説明を受けた雇用条件と若干でも違っていたり、文化や風土に馴染めなかったりすると定着しないかもしれない。
定着したとしても、この先のキャリアパスがイメージできない、この先もこの会社に居続けたい、という想いが醸成されなければ他社に移ってしまうかもしれない。
上に記したヒトのライフサイクルの各ステージにおける離脱ポイント(CHURN POINTS)において、離脱につながらないようにどう対処するか、そのことを熟慮し準備にあたることが最低限必要なアクションと言えそう。
離脱ポイントにどう対処するか
ライフサイクルの第1ステージである「自社の存在を認知してもらうには?」
このステージにおいて選択できるアクションとしては(手を付けやすい順に並べると)以下の通り。
求人検索ツール(Indeedなど)を活用
求人媒体(これらの代理店)を活用
オウンド求人LPを運用(オウンドではないけどWantedlyも含む)
TikTokなどのSNSをオウンド求人メディアとして運用
どの手法を採ったとしても、認知してもらえるかは所詮水物。どの手法も被認知を保証してくれるわけではない。このステージでのゴールは「認知してもらうこと」、つまり獲得したいペルソナが最も多く存在しているであろうセグメントに対してどれだけ自社の存在を気付いてもらえるか、どれだけそのセグメントのひとたちの目に多く触れてもらうことができるか、ということが重要。そして、どの手法を選択すべきかは、当然募集職種やそれに基づくセグメントによって変化する。ここでの手法の選択がうまく作用して多くのひとたちに自社の存在(と募集要項)を認知してもらえること、これがそのひとたちの興味を惹くこととイコールでは決してない。そのひとたちが目にした情報がそのひとたちの興味を惹くものでなければ、この時点で離脱、つまり求人記事を既読スルーされてしまう。
次のステージ「自社に興味を持ってもらうには?」
某メジャー求人媒体によれば、求職者が重視する要素はその度合いが高いものから順に以下の通り。
仕事内容のやりがい
自己成長性(支援制度)
給与水準
勤務形態の柔軟性
企業文化や風土
仕事内容の社会的意義
優秀な同僚
福利厚生
媒体やオウンドメディアに掲載する求人記事がこれらの情報をカバーしていることは最低限の必須要件。但しカバーしているだけでは情報を並べているだけ。並べているだけでは求職者の興味を惹く情報とはならない。興味を持ってもらうために重要なのは、「ターゲットとするセグメントの興味を惹く情報とはどういうことか?」を掘り下げて考える必要がある。例えば以下のようなポイントを押さえて求人記事を作成する必要がありそう。
・具体的な事例やデータを追加
・視覚的に訴求力のあるデザインやレイアウト
・ポジティブでエネルギッシュな言葉選び
・ターゲット層に合わせたカスタマイズ
・競合との差別化ポイント
・求める人物像の明確化
・応募方法を簡潔に明示
こういった点に配慮しておけば、セグメントの興味を惹く求人記事になる可能性は高そう。
もちろん、求職者は求人記事だけでなくその会社のWebサイトからの情報を収集するわけなので、求人記事の内容とWebサイトのコンテンツに齟齬が無いことはもちろん、求職者の興味がより深まるような訴求力のあるWebサイトコンテンツを整えておくこともマスト。
続いてのステップ「応募してもらうには?」
ターゲットとするセグメントにマッチした情報公開手法を採り、そこにターゲット(求職者)の興味を惹く魅力的な情報を掲示しておくだけで、多くの応募が届くわけじゃない。何らかの仕掛けを組み込んでおかなければ、応募にいたらずこのステップで離脱してしまうことのほうが多いのかもしれません。ではどういう仕掛けが考えられるか?
簡潔な応募プロセス
応募フォームの項目を簡略化(履歴書や職務経歴書のアップロードをさせつつ、そこに書いてある情報を入力させる、などは避ける)
応募後の選考プロセスを明示(そしてそのプロセスが冗長でないこと。適性検査やテストはこの時点ではできるだけ排除)
応募期限を明示(締め切りが明確でない場合、後回しにされてしまう)
応募方法の選択肢を絞る(オンライン、メール、専用アプリなど多岐に渡ると求職者が迷ったり面倒に感じたりしてしまう)
応募を促す
スカウトメール
所属先の上司やチームメンバーの声や体験談を提供する(実際の仕事内容や文化を伝える)
オフィスツアーの提供(雰囲気を直接みてもらえる機会)
オンラインセミナーやQ&Aセッションの開催(実際の仕事内容や文化を伝えつつ、疑問や不安な点を解消)
カジュアル面談の提供
インセンティブや特典の提供(応募後選考プロセスに入る時点でギフトカードなど)
単に応募を待つのではなく、こういった類の仕掛けを講じる必要は間違いなくありそう。
「入社してもらうには?」
応募してもらったからあとはこっちが選考するだけね、と大上段に構えることなく、求職者の入社意欲をできる限り高めるための取り組みが当然重要。この努力がなければせっかく応募してもらっても入社前にプロセスから離脱してしまうことになりかねない。
そして、こういった取り組みを提示するのは本当に入社してもらいたい求職者に対してのみであるべきなので、それを見極めるための選考プロセスは重要。求職者の入社決断を促すことに有効だからといって、見極め力が低下してしまうレベルの選考プロセスの簡略化はもちろん避けるべき。見極め力の維持は担保しつつ、極限までプロセスを簡略化する、という意識は忘れず。
迅速で透明な選考プロセス
選考プロセスを明示(プロセスはできるだけシンプルに)
(熟慮した上で)早めに内定通知書を提示(決断を促す)
プロセスにおける各ステップの結果を迅速に求職者にフィードバック(進行状況を明示することで不安を減らし入社意欲を維持)
魅力的なオファー
マーケットプライスと比較しても有利な給与や福利厚生などの待遇
入社後のキャリアパスやそのための成長機会を明示
入社後サポートプログラムの明示(メンター制度や定期的なチェックインなどのオンボーディングプロセスなど)
入社時期のフレキシビリティ(求職者の状況を考慮し、スムースな入社を支援)
入社意思決定における不安要素解消(不安点・疑問点を解消できる場面を提供)
自社の安定性や将来性を簡潔にアピール
オフィスや所属予定のチームとの顔合わせ
まとめ
というわけで、今回の記事ではビジネス資源としてのヒト、これを獲得(タレントアクイジション)する際に起こりうる離脱ポイントとそれへの対処について整理してみました。いつものように長文になってしまいましたが、乱暴に一言でまとめるなら、「離脱ポイントの特定とそれへの対処をうまくコントロールすることが肝要、それによって人材獲得のクオリティは一段階も二段階も上がる」、ってことなんでしょうね。
ただし、離脱ポイントへの対処において、無難にコントロールはできているが、それが過去の成功事例などに捉われて決まり切った形式となってしまっては、「ふーん。。他とあまり代り映えしないな・・」というように、求職者に対して高い訴求力を持つことが難しいのかもしれません。離脱ポイントはキッチリと抑えつつ、それへの対処法においては少しばかりのユニーク性を持たせることを意識することが他社との差別化をもたらし、その差別化が求職者の興味をそそることにつながるのではないですかね。そう、一定の形式を持たない自由で奔放華麗なラプソディのように様々なことを試してみたいなあ。