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「妄想邪馬台国」7
「稗田阿礼の話をもとに日本書紀も作られたと言われているの
よ」
「さっき、天武天皇の時代に文字ができたと言ったけど、古事記の前にも「天皇記」など、天皇について書かれた記録があったと言われているんだ。乙巳の変で天智天皇…あ、当時は中大兄皇子だったな。中大兄が中臣鎌足と一緒に蘇我入鹿を殺した翌日に、蘇我蝦夷が自分の館に火を点けて自殺したンダケド一緒に燃えちゃったのさ」
「文字ができる前なのに記録があるなんて変だね」
「日本語としての文字はなかったけど、中国から伝わった漢字はあったから、漢字で書かれたものだったんだろう」
「ねえ、話が脱線しちゃったよ。出雲邪馬台国説に戻そうよ」
「うん」と異能は頷いた。
「アマテラスとスサノオは高天原に生まれて、暴れもののスサノオはアマテラスの領地を自分のものにしようとする。スサノオは八百万の神々によって高天原を追い出されて出雲にやって来るじゃん」
「うん」
「朝鮮半島には伽耶、百済、白羅、高句麗という国々があって互いに争う。そうすると難民が出てくるでしょ?」
「うん」
「その難民が海を渡って、倭国…つまり日本にね、やって来るのよ。天武天皇って若い頃に大海人皇子(おおあまのおうじ、おおあまのみこ)って名前だったんだけどね…」
「大海人皇子ってさ、大きな海の人って漢字があてられてるんだけどさ」異能がまた口を挟んだ。
「ああ、半島から逃れてきた難民だったのか?」僕が言うと、治子が大きく頷いた。
「大海人は多分、百済との戦いの際に、倭国…日本の事ね、こっちに亡命してきたんだと思うのよ」
「わからないけど百済の最後の王・義慈王の血筋とかさ…」異能が口を挟んだ。
「血筋が良くなければ天皇の養子にはなれないよね」
「うん」異能が頷いた。ったく、このふたりは仲がいいのか悪いのかよくわからない。
「養子だって?」
僕の怪訝な表情を読み取ったのか異能は「わかってる」と言って笑った。
「日本は半島の国々に大きな影響があったんだよ。大海人皇子の母親は皇極天皇と言われるけれど、本当の母親じゃなくてさ、義慈王の血筋だから大海人を養子に迎えたんだと思うんだ」
「百済が滅ぼされて半島から倭国に亡命した大海人皇子…って」
「なんだか高天原を追放されたスサノオの状況に似ているね」
「天武天皇によって編集が進められた古事記は推古天皇までが記録されるし、日本書紀は天武天皇の奧さんの持統天皇までが記録されているのよ」
「古事記も日本書紀も、異国の人である天武天皇即位の正当性を証明しようとしたんだと思うんだ」
なるほど。僕は大きく頷いた。
「もしかしたら、古事記や日本書紀に登場する人物たちは…」
「そうだよ。天武はスサノオであり、神武天皇であり、のちに血統を廃してしまう武烈であったり…」
「でも、出雲から離れちゃったね」
「それじゃ、続けてそれについて解明してみようか」
つづく