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まるで虚ろな『女帝 小池百合子』
話題になっている石井妙子さんの『女帝 小池百合子』を読んだ。読もうと思ったのにはいくつか理由があった。まず都知事選があること。学歴詐称については知っていたし、希望の党の顚末で信用していないのだけど、それ以前にどんなことがあったのかよく知らなかった。
つぎに石井妙子さんはという著名なノンフィクション作家の著作に触れて見たくなったこと。ラジオ番組のゲストとして話されている様子を聴いて、手に取りたくなった。最後に、自分の身近なところ思いあたる或る嘘つきがいて、それなりに被害を受けたこともあり、嘘つきの生態について興味があったこと。
いざ読み始めると、文章がうまい。ミーハーな暴露本では全くなく巧みな文章で、落ち着いていて読み進ませる文体だった。こんな引用から始まる。小池百合子氏の人生の見事な要約だと思う。
「暗い深淵から出て来たか、明るい星から生れたか?ぞっこん惚れた『宿命』が小犬のように後を追う。気紛にそなたは歓喜を災害を処かまわず植つけて、一切を支配はするが、責任は一切持たぬ」
ボードレール・堀口大學訳『悪の華』
これは冒頭に出てくる取材相手の言葉。これが小説の登場人物だったのならなんて魅力的だろう。
「なんでも作ってしまう人だから。自分の都合のいいように。空想なのか、夢なのか。それすら、さっぱりわからない。彼女は白昼夢の中にいて、白昼夢の中を生きている。願望は彼女にとっては事実と一緒。彼女が生み出す蜃気楼。彼女が白昼見る夢に、皆が引きずり込まれてる。蜃気楼とも気づかずに」
でも現実の政治家、東京都知事なのだった。だから恐ろしい。学歴詐称については、カイロ大学が声明を出しているけど、どう考えても黒だろう。大学生になるまでは、ただの虚な少女といえたかもしれない。でもそのあと、見事なまでに虚飾の階段を上っていく。どこからどうしてこんなに嘘が積み重ねることができてしまったのだろうか。
なんとなくわかる気もする。かつてぼくの近くにも年配の嘘つきがいた。その嘘つきを(Liarということで)L氏としよう。L氏と小池氏にはいくつも重なった。
小さなことであれば、強引に接近したのに、相手から声がかかったと言いふらす。人のアイデアは、自分のものにする。そんなことは日常茶飯事。いいことは全て自分の手柄にしてしまう。その一方で、自分の失敗は他人になすりつけてしまう。
小池氏もL氏も友達がいない。人を全く信用しないから、使える人/使えない人でしか人を見ないから人付き合いといえるものがない。人は手段に過ぎない、そういう考えなのだと思う。利用するときに持ち上げておいて、用が済んだら新しい相手に媚び始める。逆に、利用していた相手が自分の脅威になってくると、敵視し始めこき下ろす。
友達がいないことにもメリットもある。L氏をみていて思ったのは、口がうまくて深い付き合いをしないと、嘘はなかなかバレないということだった。人は意外と信じてしまう。人は大袈裟に語る人がいるのはわかっても、そんな大嘘つきはいないと思っているのかもしれない。点でしか付き合わなければ嘘はバレないようだった。嘘つきのプロにはそれがわかっている。
この点は、本書で石井妙子さんも書かれている。嘘がまかり通るにはそれなりに環境ができている。日本人は忘れてしまうのか、政治家を選挙前の印象で判断してしまう。過去の不祥事をすっかり忘れてしまう。点と点を結んで線にしてみない。だからきっと小池氏は再選するのだろう。
L氏は庶民だから影響はその周辺限られる。小池百合子レベルになるとそうはいかない、膨大になる。メディアも取材しにくくなるといって強気に出ない。ますます印象操作が用意になってしまう。
嘘を重ねて見事に地位を駆け上がっていった小池氏。今年の初めにみた韓国映画『パラサイト』を思い出した。嘘がみごとに潜り抜け夢のような世界を手に入れた。でも最後、現実に向かってがいっきに衝突する。そんな悲劇が起きぬことを祈りたい。日本の社会は茹でガエルだから、大きな惨事が起きないと気づかないのかもしれないけれど。
石井妙子さんが小池氏の虚な物語を一冊に編み上げることで、それぞれの場面でバラバラになっていた被害者の気持ちも一つの線に結びつけたのではないだろうか。被害に遭われた方の声を世間に代弁してくれたと、そして被害者がこんなにも多かったのだと知って、いくらか気持ちが救われたのではないかとも思った。
いま言えることは、2020年7月5日の東京都知事選の前に、より多くの人に本書を読んでもらいたい。それしかない。