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#66 『多分あと1ヶ月くらいで死ぬと思うんです』と言われた日

「多分、あと1ヶ月くらいで死ぬと思うんです」
と突然言われた。

職場のUさんからの電話だった。
その頃、私は20代で人事の平社員だった。

最初はふざけてるのかと思った。
でもすぐに、こんなことで
ふざける人はいるわけないと
思いなおした。



「多分、あと1ヶ月くらいで死ぬと思うんです。
 自分が死んだ後に、何が家族に残るか
 わからないから教えてもらえませんか。」


正直、何と答えたか覚えていない。
ただ福祉制度とか本人が何を選択しているかに
よるから、とりあえず後日別途時間をもらって
説明することにした。

何で私に電話をかけてきたのかもわからない。
会話したこともなかったし、
他にも頼りになりそうな人事の先輩はたくさんいるのに。

後日、説明の日。
Uさんに時間をもらって説明した。
初めて会うUさんは、痩せていた。
癌だという。
残された期間は、あと2・3週間。


調べた結果を説明した。
会社を通じて加入している保険で、本人が
死亡した場合は、金額がいくら入るとか
そういうこと。

時間にして2、30分程度だったと思う。
「ありがとう。よく分かったよ」と
言われた。
Uさんはちょっと笑顔だった。

家族に遺せるものがあるって
わかり少し安心したようだった。

私は、途中で、
「お疲れ様です」とか
「大変ですね」とか
本人を気にかける言葉を
何も言わなかったと思う。

どれも上っ面の表面上の言葉に思えたし
私に何がわかるのかという思いもあり
何も言えなかったと思う。

とにかく、機械的になりすぎないよう
でもできるだけ淡々と、ポイントだけを
説明した。

職場に戻って上司に報告した
「お疲れ様。大丈夫だった?」
と聞かれた。

「大丈夫かわからないけど
 とりあえず説明しました。
 ありがとうと言われました」
とか言ったと思う。

何とも頼りない報告だ。

それから2、3週間後、
Uさんは亡くなられた。

あの時の私の対応はあれで
よかったのか、今でもわからない。
今、同じような問い合わせを受けても
やっぱり同じような対応を
してしまうかもしれない。

時がそれから20年ほどたち、
私にも家族がいるようになって思う。
お子さんがいて、まだ成長する中、
先に逝かないといけない
まだまだ見守りたいことがある。

でもそれは叶わない。
そんないろんな思いも
全部乗り越えて、
いや、乗り越えてないかもしれない
けど、半ば達観したからこその
笑顔だったのかなって。

Uさんのことを
思い出すたび、
子供と一緒にいる日常、
自分の毎日が当たり前の幸せ
じゃないと思う。

今ある時間を大切に、
全力で生きないとって。

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