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ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』

こんにちは。
今回も舞台の感想を。
ヨーロッパ企画『来てけつかるべき新世界』です。

僕はヨーロッパ企画の追っかけと言っていいくらいにはファンだと思います。高校1年生の時に、演劇部で『曲がれ!スプーン』を観て、自分たちで上演して以来、7年好きです。DVDは20本以上持ってますし、映像化してる過去作品はあらかた観てるんじゃないかな?映画とか映像作品も観てますし。25周年の南座公演、25周年記念カフェには毎日のように通いました。なんなら俳優として上田誠さんのワークショップにも参加しました。映画のロケ地にも行って、舞台となった旅館に宿泊もしました。それくらい好きです。

僕にとってヨーロッパ企画は、僕の演劇観の根幹にある物といいますか、初めは演劇=ミュージカル、セリフは前を見てハキハキ喋る。歌って踊る。リアリティの無いような抑揚を付けて喋る。といった印象しかなかった僕。(今ではミュージカルも好きですし、出演もします)そんな時に演劇部に所属して初めて観た作品が『曲がれ!スプーン』。僕が初めて出会ったミュージカル以外の演劇で、「え?全部アドリブ?」と思ってしまうようなナチュラルなセリフ回し、俳優自身が楽しんで演じている事が伝わってくる感じに、僕の演劇に対する固定概念はぶち壊されました。そんでもって僕の俳優人生初舞台が演劇部での『曲がれ!スプーン』(勿論許可は取った)なもんだから、ヒナが初めて見た動く物を親鳥と思うように、今でも僕の演劇観の根幹にヨーロッパ企画はいます。

さて、『来てけつかるべき新世界』、勿論初演もDVDで鑑賞しました。こんなけヨーロッパ企画愛を語っておきながら何ですが、正直僕はこの作品、初演の時からあまりハマってはいないんですよねぇ。と言うより、近年の上田さんの作劇スタイルが僕はあまりハマってない。いや、面白いし、好きなのは間違い無いんだけど。でも、今回の再演で少しこの作品の面白さが分かったような気もしました。

近年の作劇スタイルとは?って事なんですけど、これは様々な媒体で上田誠さん本人が語ってるので間違いないのですが、近年は「企画性コメディ」と銘打ったスタイルで作劇させれてるんです。まず初めに舞台装置を考えたり、「今回は"迷路"でコメディを作ってみよう」「今回は"切り裂きジャック"で演劇を作ってみよう」とざっくりテーマだけ先に決めて、その後はその舞台装置・テーマでどんな芝居が出来るかひたすらエチュード(即興劇)をしながら稽古とリアルタイムで作り上げていくというスタイル。ストーリーラインも起承転結も何も無い、この作品がどうなるかは誰にも分からない状態でパッションで作っていくんです。それが悲しいことに、僕にはなかなかハマった試しが無いんです。確か上田さんは2014年の『ビルのゲーツ』でこの「企画性コメディ」という手法を編み出したと言っていたはずで、上田さん的には大成功と語っていたはずなんですが、僕にはこの『ビルのゲーツ』がヨーロッパ企画作品で最も好きじゃないんです......悲しい。何回DVDで観ても長いと感じて寝てしまう。この企画性コメディの何がハマらないって、エチュードの中で生まれたのであろうネタの1個1個が乱立した印象ばかりで、起承転結が無く、物語がかなり平坦に僕には感じてしまうんです。いや、ヨーロッパ企画の舞台にはテーマなんて無いし、上田さん自身、どうやったら面白い事が出来るだろうということだけを純粋に追求していて、そのスタイルは昔から変わって無い。でも、やっぱり昔の作品は恐らくノーマルな戯曲の書き方、ストーリーを順を追って書いていき、ある程度完成した状態で稽古してると思う。ストーリー先行だから、必然的に昔の作品の方が内容の厚みみたいなのは感じるんですよね。だから極論言ってしまえば2014年以降のヨーロッパ企画作品は、僕は尽く外しまくってます。好きな作品が正直無い。去年の劇団25周年記念公演である『切り裂かないけど攫いはするジャック』も大絶賛だったけど、僕は正直あんまりだった。2回観に行ったけど、2回目寝ちゃったし。やっぱり僕は『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれ!スプーン』『月とスイートスポット』が好き。伏線回収もヨーロッパ企画のお家芸で、それは近年にもしっかり残ってるけど、やっぱりストーリー先行で書かれた物と、即興の中で組み立てあげた物では、後者は伏線回収の気持ちよさみたいなのが弱く感じる。

でもね、だからこそ近年の映画作品、『ドロステのはてで僕ら』や『リバー、流れないでよ』は、やっぱり映画だから撮影の中で即興で作る訳にはいかないから、従来のスタイルで作られている。だから僕はめっちゃ好きなんですよね。『リバー』なんて4回観に行きました。初日舞台挨拶もいきました。

まぁ、僕の拗らせたヨーロッパ企画愛はここら辺にしておいて、古参厨は黙っとりましょう。

さて『来てけつかるべき新世界』、先述したような理由から元々あまり好きな作品ではありませんでした。今回再演を観た感想も同じです。でも、なんか面白さが少し分かった気がしたんです。なんでこの作品が岸田國士戯曲賞を取れたのかが。

この作品、元々上田さんはかなり戯曲賞を狙って書いた作品なんじゃないかなって。逆に言えば他の作品じゃ絶対岸田なんで取れないと思います。ファンなのにwいや、でもヨーロッパ企画は純粋な「おもしろさ」、画的な音的な「おもしろさ」を追求したエンタメ劇団で、テーマやらメッセージ性やら緻密な文学性という物はあまり無いんです。でも、『来てけつ』にはそれが少しある。そこがいつもの上田誠作品と違う。

日々我々の生活の中に入ってきているコンピューターや人工知能の技術、その行先には本来の人間の姿はあるのか?そもそも"人間らしさ"、アイデンティティとは何だろうか。そういったキーワードが面白おかしく隠されてる。いや、大部分ではテーマとかは無くて、いつもの上田誠作品なんです。でも、どこか作品の根底にほんの1滴だけそういうエッセンスが垂らされたことによって、作品全体にうーーーーっすら広がってる。それが純粋な「おもしろさ」だけを体現する上田誠作品から、少し違う物へと姿を変え、果ては岸田國士戯曲賞に繋がったのだろうと、勝手ながら僕は思います。

あと、今作は新世界という世界観や登場人物の設定は共通しながら、アニメのように全5話のオムニバス形式になっている。その影響か1話1話にちゃんと起承転結、伏線回収があるんですよね。だから近年の作品でありながら、割と一昔前のヨーロッパ企画の香りもする作品になってる。だから、今回の再演を経て、僕はこの作品が少し好きになったというか、近年の作品の中では1番好きになったかも。

あとヨーロッパ企画には珍しく、人情・感動演出が結構ある作品であり、ここもちょっと岸田狙いにいったのかな?wとか思ったりもするんですが、そこでオチを用意して感動からコメディに舵を取る感じがめちゃくちゃ面白いんですよねぇ。やっぱ純粋な感動で〆られちゃうと「ヨーロッパ企画でこれやられるのかぁ」って少し冷めてしまいそうで、だからこそ最後はヨーロッパ節で〆る感じがいい。

あと板尾さんがめちゃくちゃいい。初演には参加してなかった板尾さんなんですが、流石コメディ玄人といいますか、ちゃんと全シーン面白い。安心感がある。あと、他のキャストの笑い所をサポートするような援護射撃もめちゃくちゃ的確で、これは唸りましたね。

あとやっぱり去年の『ジャック』もここは好きだったんですが、上田さんの本ってラスト10分くらいで怒涛の展開に次ぐ展開で、観客が咀嚼するのを待たずに、大量のぶっ飛びおもろ要素で殴ってくるんですよね。「全部タイムパトロールが無理やり解決します!」とか「ジャックとは人ではなく、組織全体のことでした!」とか「エスパーが協力してサンタクロースをでっち上げて、それをカメラに撮らせて女性ADを救おう!」とか......この大オチというか、そこまで緻密に運んできたコメディを最後に情報量で半ば乱雑に殴る感じ。好きですねぇ。

ま、今回はザッとこんな感じです。
物販では2017年の『出てこようとしているトロンプルイユ』のDVDを買いました。ヨーロッパ企画DVDコンプ頑張ります。

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ヨーロッパ企画大好き!

おわり。

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