【書店歳時記②】侵略の季節感
秋は手帳?
書店にとって秋は仕込みの時期だ。
長い猛暑日の季節がようやく終焉を迎え、気温の低下に伴いようやく人々の読書欲が湧いてくる季節となる。
日本でもアメリカでも一年で一番本が売れるのは、年末年始の長期休暇前。
ここに売上のピークを迎えるように、手練れの書店員達は秋から売り場を、フェア台を次第に整えていく。
読書家に『ウチは良い本を揃えていますよーー』と日々アピールし
読書家の読書欲が最大限に高まった年末年始に確実に自店舗に来店してもらうことが最大の目的だ。
しかしそんな手練れの書店員達にとって最大最強の障害が発生するのも、この季節…
そう、奴(手帳)がやってくる、、
個人的には何年経っても信じがたいのだが、2025年シーズン向けの手帳は9月第一週頃に入荷が始まり、多くの書店では既に店頭に並んでいるのだ。
みなさんも次にリアル書店を訪れた時に売り場を見て欲しい。
まだ猛暑日に近い気温の日々なのに来年2025年用の手帳が数多く、書店の好立地に整然と陳列されているはずだ。。
進撃の手帳
いつの頃から手帳はこんなにも暑い時期から大量に入荷するようになったのか?手元にも詳しい記録はない。
書き手は嫌なことは、忘れたい主義なので、、(笑)
因みに書き手が最後に店舗での手帳展開を経験したイ〇ン系列の書店チェーンでは、本部が版元?取次?と一括商談、店のサイズに合わせて強制的に扱い点数、数量を決められていた。
手帳大手2社だけで400~800点‼位の扱いで数量は2.3部~から最大40部程度
上記以外にも様々な出版社が手帳を数点ずつ刊行しておりその数が恐らく100点~300点程度、、、
しかも手帳の展開期間は9月からなんと、翌年5月迄(笑)
※1月下旬以降は4月はじまりの手帳を展開する。。。
みなさんは、ご存じでしたか?
そこそこの大きさの書店の年末年始には手帳が1000種類以上も陳列されて、半年以上も継続して売り場を占有していることを、、
しかも問題は手帳だけではない。。。
日記が50点~150点程度
家計簿が20~50点程度
年賀状素材集が30~60点程度
カレンダーが80~200点以上(笑)
※上記は展開の一例の上記以上の規模の展開も行われている。
これから年末年始にかけて、一番本が売れる時期なのに
一見本とは関係ないような、商品が数多く入荷し、売り場の良い場所を占有することになる。。。
せっかく、本を読みたく見たくなって年末年始に書店を訪れた読者は、大量の季節商材に圧倒されることになる。
これが書店の年末年始の恒例の風景になってしまった。
手帳=書籍??? カレンダー=書籍?? 日記=書籍?
書店に年末年始商材が大量に並ぶようになった要因はいくつか存在する。
まず、前提として本屋にならぶ、手帳、日記、カレンダーの大半は出版社が制作し『書籍』として流通しているものだ。
取次経由で書店に入荷して、売れ残れば原則返品も可能。販売時の書店の利幅も書籍と全く同じ。
因みに書店に並んでいる手帳、カレンダーでも書籍ではないものも存在する。見分け方は簡単で商品に貼付されている販売用のバーコードを見れば一目瞭然。2段のバーコードが付いていたら、それは『書籍』として流通している商品だ。
年末商材肥大化の遠因
さて、何でこんなに書店での年末商材が肥大化に至ったのか?
その原因を列記してみよう。
出版社起因→版権料は原則不要、海外での大量印刷により製作費大幅削減、利益率向上
取次起因→書店への大量納品による運送コスト効率化、委託送品での注文がなくても大量送品可能
書店起因→経営の不在により、取次に言われるがままの品揃えと早期&大量展開、大量仕入れに協力することによる出版社、取次からの報奨金狙い
1.は盲点かもしれないが、手帳にもカレンダーにも家計簿にも著作権者は存在しない。コクヨのノートなんかと同じ存在だ。しかもそのほとんどが海外の安い印刷屋、製本屋を使用。本を作るよりよほどローコストなのか、年々手帳を作り始める出版社は増えている。
2.が肥大化の最大の要因&受益者で間違いない。年末商品を『書籍』扱いにすることで流通総量の向上に成功。また年末商材は何故か売れた分を補充注文する形式ではなく、9月入荷でも翌年1月までの販売予定数量が一度に入荷する。取次は一度に多量の送品を稼げて送品効率が上がるが、書店は大量に送品された結果、支払いサイクルが一時的に膨れ上がり、店頭の在庫ストックスペースは鬼のような状況となる。
手帳の在庫をストックするスペースを作るために本を多量に返品することも年末商材の支払いのために銀行から借金する書店も珍しくもない。
でも、これっておかしくね??と書き手はずっと思っている。
そんなに手帳が好きなら、書店なんかさっさと辞めて手帳専業店を作ればいいのに。。。
3.が一番受益が少なく、むしろ無能ぶりを体現している。。
僅かな報奨金目当てに、売り場とストックを圧迫し、大量の手帳の入荷は支払いサイクルを乱し、どこの書店も代わり映えしない同じ手帳が売り場を埋め尽くし、年末に本をたくさん読みたい優良顧客達を失望させてAmazonに送客することになるのだから、、
マス消費の終焉とニッチの愉しさを、なぜ取次と書店経営者は理解できないのか?
ここまで書店での年末商材展開の不条理を論じたが、手帳や日記に非がある訳でもなく、書店で手帳を扱うこと自体を否定する訳でもない。
こだわりの手帳や読書やある特定のジャンルに特化しているニッチな手帳は時に本と同等の魅力を持つこともある。
問題はその展開手法だ。
取次と無能な書店経営者は決まって、
『最大公約数に受け入れられる商品を最大限に売る』的なことを宣う。
彼らは毎日、ハリーポッターとか鬼滅の刃みたいな本だけを売っていればOKと本当に思っているのだろう。
戦後長く続いた大量生産、大量消費の時代がまだ続くと思っているのか?
ネット普及による変化を未だに受け入れられないのか?ネットを使えないのか?(笑)
ネットの影響など出版業界とは無縁として、考えようともしないのが?
大量消費とスピードを追い求めるなら、Amazonとガチンコで勝負することになるが、そんな度胸も能力もあるのか?
高齢者や団塊世代だけを相手に商売していると、高齢者や団塊世代が消費からもリタイアした時点で出版業界も完全に詰むことを理解出来ているのか?
リアル書店は必然的にマス消費から卒業し、質やニッチを追求する形態に進化を遂げるべきなのではないか?
Note上だって少し探せば直ぐにこんな記事を見つけられる。
勿論、書店のビジネス書売り場には類書が溢れている。
書き手もそんな売り場の本を読み漁って、自分の売り場作りをブラッシュアップしてきた。
手帳やカレンダーを年末年始の書店に置くのも悪くないかもしれない。
でもその前に、もう少し本の売り方やマーケティング、顧客たる読者のことについて、出版業界関係者一同は思慮深くなるべきではないのか?
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