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【取次制度黙示録③-4】なぜ最近の書店には、微妙な雑貨や文具がたくさん並んでいるのか?

前話回想

みんながそこそこに興味も好感も持っているのに、その良いイメージをビジネス的に全く活かせず、絶滅危惧種的な立ち位置の僕らの書店業界。

特にダメな書店にありがちなのは『読者の興味を一切掻き立てられない、画一的でつまらない品ぞろえ』
どうして、つまらない品ぞろえになってしまうのか?
CASE.1では、そもそも書店が自ら注文をしない、品ぞろえの概念すらないダメ書店の話。
CASE.2では『POSレジ』という文明の利器を使いこなせず、むしろ同調圧力による予定調和的な凡庸な品ぞろえが拡大するきっかけになり、全国的に同じような品ぞろえの書店が増える遠因になってしまった残念な書店群の話。
CASE.3では業界全体の思考停止と自己都合から、ほぼ無意味な『新刊』偏重の品揃えが普遍化し、先人たちの大いなる遺産ともいえる『既刊』をビジネスとして活用できていない、残念過ぎるビジネスセンスを指摘した。
今回も引き続き、考えていそうで、何にも考えていない人たちのお話。

CASE.4 書店は文房具、雑貨屋の夢を見るか?

書店で扱っている商材やサービスは書籍や雑誌だけではない。
図書カードを代表とする金券類の販売。
いまでは少なくなったが各種検定試験の受付。
児童書売り場の知育玩具類。
そして店舗により規模は異なるが、文房具、雑貨類の販売。

最近この文房具、雑貨類が書店の店頭での扱いが明らかに増えているのに、皆さんお気づきだろうか??
以前は店内の一角にまとまって展開されていたのが、最近は店内のあちこちに隙を見つけては様々な雑貨類が展開されている。
中には書籍のフェアスペースを丸ごと廃止して、雑貨コーナーを展開するような書店も珍しくない。
書き手は恵比寿の駅ビルにある、Y隣堂のレジ裏フェアスペースが大好きでいつも勉強させてもらっていたが、店舗の改装に合わせて一時期フェアスペースが丸ごと雑貨売り場になった時の落胆はいまでも、強く心に刻まれてる。。。
※現在は雑貨と書籍が併売されているが、最前列は雑貨である。。

別記事でも指摘した手帳カレンダー等の商材も含めて、非書籍非雑誌の商材は日に日に確実に増えている。
なんでこんなに増えているのかな??
書店を愉しみしている顧客や読書家は本当にそれを望んでいるのかな??


『粗利向上』という錦の御旗と人材不全

 『文具は書店と親和性がある』
これは大昔から良く言われている理由であり、決して否定する訳ではないがビジネス上の展開理由としてはふんわりに過ぎるだろう。
そこで関係者が口を揃えるのが『粗利向上』である。

一般的に書店における書籍の粗利率は20%程度と言われている。
対して文具の粗利率は40%程度と出版物に比べて高いのが主張の源泉だ。
ただし、良い事ばかりでもない。
文具の平均単価は250円と低く、細かく繊細な商品管理業務を迫られる。
また文具は書籍雑誌と異なり買切り商材だ。返品が出来ずに仕入れた商材を価格設定なども含めて上手に売り切る必要がある。
書店にそんな文具を管理できる人材っているのかな?
または人材を育成出来るシステムがあるのかな?
書籍、雑誌を販売するための人材育成も覚束ない業界が本業でないジャンルの人材を育てることが出来るのか??
そもそも、書籍雑誌と同じで文具も売り場に並べれば勝手に売れる商材でもない。品ぞろえとか売り場作りはどうしているのだろうか?

取次経由の安直な文具売り場、雑貨商材

ここにも顔を出すのがおなじみ出版取次である。

書籍と同じように安直なパッケージ売り場と自動発注を標ぼうしているが、
このご時世に誰にでも運営出来るインスタントな売り場にどれほどの価値があるというのか?
記事内では学参との併せ需要を多少でも獲得出来たのを誇っているが、義務教育で教科書が全面デジタル化した後はどうなるのかな?
また書籍雑誌と違い文房具は入手経路が幾つも存在する。
百均、コンビニ、無印良品、ホームセンター、勿論の文具専門店に各種ECサイト。
書店ならではの拘りや特徴がないと、そんなに有望な商材に見えないのだが、その辺は大丈夫なのかな?

一応取次様、ご自慢のオリジナル商材のページを見つけたのでリンクを貼っておくので各自で判断してください。


チェーン書店本部主導による文具売り場、雑貨商材

一方、取次ルート以上に昏迷を深めるのが、チェーン書店の本部主導の文具雑貨売り場だ。
人材不足に気づくわけでもなく、素人同然の本部仕入れ担当者が、経営者の『粗利向上のために積極的に文具もっと置けー』の号令の下にカオスな発注を繰り返すことになる。

以下は書き手が体験した本当にあった怖い話である。。。

時に西暦2017年4月。
書き手はイ〇ンモール内にある書店で雇われ店長を始めた。
立地は山梨よりの東京郊外で売り場面積500坪を超える大型店であったが地域の需要に対して明らかにオーバースペックであり売り場を持て余していた。書き手が赴任した時点で店内のあちこちに正体不明の文具雑貨が溢れている店舗だった。
書き手はそんな状況に嫌な予感を感じつつ現状把握に努めていたが、5月のGW明けに事件は起こる。

店長宛の少し大きめの配送物があり、中を確かめると、男性向け皮財布5個と仮納品伝票。売価は15000~20000円(確か。。)
店の誰も発注した覚えはない。
慌てて状況を確認すると、本部の担当女性部長の手配らしい。
意図が一切わからず、コンタクトをとると下記の回答があった。

  • 父の日向けのギフト商材である

  • 店舗の目立つ好立地に展開せよ

  • メーカーの社長が売り場状況を視察する模様なのでそのつもりで

書き手はその要求に眩暈を覚えながら、切々と売り場の理を説いた。。

  • 該当書店の平均単価は1300円程度で、15000円~の商材はハードルが高い

  • 普段革小物の扱いは無く顧客に革小物やギフト商材のイメージを醸成出来ていない

  • ギフト用というが、プレゼント包装用のギフト箱や展示用の備品の準備もない

  • イ〇ンモール内、書店から30秒の立地に鞄皮革製品の専門店がある

  • そもそも父の日は母の日に比較してギフト需要は薄い

上記を聞いて担当女性部長は一言こう言い放った。
『いやでも、粗利向上のためなので』

書き手は上記の発言を聞いた後の事は、よく覚えていない(笑)
多分、文具担当のアルバイトさんが気を利かせて適当に展開してくれて、一切の反響も問い合わせもなく撤収されたはずである。
勿論、粗利は1円たりとも向上しなかった。。

因みに書き手が着任した時点で該当店舗の文具在庫在高は月商の8倍を超えており(笑)、絶対売れないようなお値段10万円近くの高級万年筆や売価8000円程度のファーバーカステルの色鉛筆セットが50セット以上在庫があった。

この店の文具在庫はこの3年後にモール内での店舗移転、および文具取り扱いの外部委託により有耶無耶の内に葬り去られた。
粗利収支がどのような結果だったのかは、不明である。。。

ここまでの極端な事例ではなくとも、似たような経験はチェーン書店の勤務経験者なら、幾らでもあるのではないだろうか??
矛盾と欺瞞に満ちたチェーン本部の対応に、現場が辟易してヒドイ目にあうのが日本の悪しき伝統でもある。
本部に鎮座するダメダメな経営者やダメダメ経営者の戯言を愚直に実行してしまう人たちは、こんな基本的な名著でもきっと未読に違いない。。


書店での真っ当な文具雑貨の取り扱い方

ここまで書店での文房具、雑貨取り扱いの不条理を論じたが、勿論文房具や雑貨に非がある訳でもなく、書店で文房具、雑貨を扱うこと自体を否定する訳でもない。
むしろこれからの書店では、書籍だけに限らず様々な商材を扱って多様な価値観を顧客、読者に示すことが重要となる。
そもそも書籍は、神羅万象、過去現在未来様々な現象を扱える商材であり様々なジャンルとコラボし易い特徴を持っている。

皆さん、書店に並んでいるジャンルを思い出して欲しい。。
文藝、漫画、児童書、学参、雑誌だけではない
料理、ファッション、ダイエット、旅行サイクリング、歴史地理、自然科学化石恐竜、動物植物、工学建築、自動車バイク、宇宙物理etc

これら豊富なジャンルの中で、各書店がお勧めしたいジャンルの書籍と雑貨を並べて展開するだけで、顧客、読者からの見え方は全く変わってくる。

書籍が雑貨の説明をして、雑貨が書籍の内容を具現化する。

この愉しい連鎖が、読者にも書店自身にも新しい気づきと理解をもたらす。
せっかく書店をしているのだ。おすすめしたい書籍やジャンルに関係ある雑貨や文具を売る方が愉しいに決まっていし、顧客や読者にもその価値は伝わりやすい。
その雑貨展開に独自性があれば、不毛な価格競争とも無縁でいられる。
こんな事はだいぶ以前から良心的な業界内関係者から発信済の事例に過ぎないのだが、正鵠は届かないものである。。


さて今回も話が長くなった。
次回で品揃えの話は一旦、完結となる予定だ。
時代の変化に対応し、それぞれの書店の個性が際立つ品ぞろえに必要なことは何なのか??
では、また。







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