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はせがわゆうじ 『もうじきたべられるぼく』 中央公論新社
我が家にはテレビがない。ネットにつながる環境で暮らしていれば、そこで無数の動画を視聴できるので、テレビがなくとも暇つぶしには事欠かない。よく視聴するのは落語なのだが、先日、『文珍・小佐田 夜の日だまり』というラジオ番組のYou Tube版で本書のことが話題になっていた。それで、早速手に取った。
本の帯に読者カードのコメント欄からの引用が並んでいる。正直なところ、ちょっとどうかなと思う。Amazonで買ったのでこうして手元にあるが、書店で手にしたら、帯だけを一瞥して中を開かなかったかもしれない。しかし、内容は至極真っ当で、当たり前のことが書いてある。絵本なので「描いてある」とするべきか。特にどうということのほどではない。
私は番組で初めて知ったのだが、巷で話題の本なのだそうだ。奥付を見ると、2022年8月10日の初版発売以来版を重ね、手元にあるものが今年10月10日発行の23版だ。読んだ感想としては、絵がいい。「ぼく」の立ち居振る舞いが大人だ。運命を悟るというところは、あの戦争での特攻隊員に通じるところがある。
真っ当に社会生活を送り、他者との関係性の中で右往左往してきたならば、「ぼく」と同じようにして生きてきた人が多いのではないか。
思えば毎日 牧場で ふとれふとれと言われて
いっぱい牧草をたべさせられて
こんなになっちゃったんだ
あぶら身 多いと思うけど……
太ったうしのほうが 高く売れるんだって
「自分らしく」とかよく言うけれど、その「自分」って何なんだ。世間で言われていることに惑わされて「高く売れる」生き方を無意識に志向して、そこに自己承認欲求の捌け口を求めて、満足したり、挫折したり、……
馬鹿じゃねぇの、と思わないこともないけれど、それを言っちゃぁおしまい、か。こんなものを読まなくても、食べ物は無駄にせず、自他の違いをわきまえて、身を慎み、穏やかに生きていけるようになりたいものである。
たぶん、特攻隊や「お国のため」で死地に赴いた人たちも、あの世で今の我々を見て「馬鹿じゃねぇの」と思っているのでは。
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