ことばって「福」
「言葉って福だよなぁ。さて今年もあと3日。来年はもっと福のある1年になってほしいものだ」福田福人は、とある百貨店にひとりで来ていた。別に何かを買いに来たわけでない。彼は今日から年末年始の休みである。だから出てきただけに過ぎない。
妻も恋人もいない福人は、年末年始も気軽なもの。ひとり暮らしであるが両親のいる実家とは鉄道で2駅離れたところにあるから、31日になったら気軽に戻れるのだ。
「そうか、もう福袋の案内をしているぞ。内容も書いてある。ええ?数十万!」福人は周りに誰もいないことを良いことに、小さな声を出す。「いやあ、こりゃずいぶんな料金だ。まあこれだけついているのなら安いかもしれないが、これ買う人って福に満ちた、相当な資産家だろうな」
家電販売のフロアで見る福袋で、驚くほどの料金に驚く福人。そのまま、エスカレーターで地下に向かった。「知っているんだ。今日は福の日。そう俺の日だ」 そんな呟きを頭で考える。地下には食料品売り場があった。いわゆるデハ地下。
このときはおせち料理や正月を彩る食料品を求める人でにぎわっていた。そして福人はニヤリと笑う。「12月29日は福の日」という広告を。
「たくさんのふ(2)く(9)か、福の日。何しろ俺の名前にはふたつも福があるんだ。だけどその割には、あまり福があるかどうかわからないな」福人は腕を組みながら考え込む。
食料品売り場には年末の食材を買う人でごった返していた。
福人は売場を見学していく。福に満ちておめでたそうな、表情に見えなくはない塩鯛。黄色い粒々が、光り輝く数の子が並んでいる。また同じく渋い光を放つ黒豆。さらには、これまた福が纏わりついたような、紅白のかまぼこの販売光景。そのほかいろいろと、見事に「福」を体現しているような、おせち料理の食材が並んでいる。
「おっと福が逆さまだよ」福人か見たのは、烏龍茶など中国茶の販売でフロア。そこには確かに、福が下に向けて飾られている。でも福人は、本当の理由を知っていた。あれは「福」が、落ちて欲しいと願うために、わざと福の字を下にしていると言うことを。
「一年の始まりは、福に満ちているなあ。皆んなの想いが凝縮しているようだ」福人は、にこやかに売場を見渡す。
「そうだ」福人はポケットからスマホを取り出すと、メッセージを送った。「いま、百貨店の食料品売り場にいるけと、福かありそうな、何か買っておこうか?」数十秒後に返信が来る。相手は福人の母親。「福、本当か?まだおせちの具材買ってない。ありがとう。好きなの買ってきてくれる」それを見た福人は、嬉しそうに福に満ちたOKを意味するスタンプを、返すのだった。
こちらの企画に参加してみました。(言葉のテーマを福にしたので、福の字を多い目に入れてます。来年は福に満ちた1年になりますように)
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シリーズ 日々掌編短編小説 343
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