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汗をかく 第828話・5.1

「うう、こ、これはすごいな」これは心の中の叫び。顔から汗がしたたり落ちる。体の中がますます熱くなっているようだ。
「いつみても不思議だ」とっさに腕を見る。またしても新たらしい汗が肌から次々とにじみ出始めた。それにしても不思議だ。肌は見た目だけではしっかりとして、何も入るスキがなさそうな塊に見える。
 実際そこに水をつけたとしても、肌から体の内部に水は入っているようには思えないのだ。仮に入っていたとしよう。でもそれがどのレベルか良くわからない。にもかかわらず、逆に肌の奥、体内からは突然丸まった液体がどんどん湧き出ているではないか。

「い、イボのようだ」腕からは大小無数の水が浮き出ていた。それがある程度巨大化すると、今度は流れる液体と変貌する。汗としての水量が増えすぎてその重みが耐えられないのだろう。重力に従い、そのまま下の床方向に流れ落ちる。

ーーーーーーー

「うん、ずいぶんと汗をかいた。だがもう少しの我慢だ」再び心の中の声。ここは高温サウナの中である。

 今日はスーパー銭湯に来ていた。何度も来ている場所だが、これまでは低温のスチームサウナに入る。つまり高温サウナを避けていた。高温サウナの方が人気が高く、気軽に入りにくいのがある。それに加えて90度近くの高熱世界。
やはり熱いものへの抵抗があった。 それに対して50度程度の低温サウナは人があまり入っていることがない。
 だから比較的入りやすく長時間いても熱くないのも心地よいのだ。ただ元々湿度が高い空間。水分を多分に含んでいると思われる白っぽい微粒子のようなものが室内に立ち込めている。あっという間に肌から汗がにじみ出たかと思うと、滝のように汗が流れていくのだ。
 スチームから出た時には全身汗だく。これを洗い場に行って、シャワーで流すとすっきりする。

 だが今日は何を思ったのか?ふとした思いで、高温サウナに入ってみた。ちょうどサウナ室にだれも入っていなかったのが幸い。勇気をもって木の扉を開ける。乾式のサウナは入った瞬間、いつもとは違う高温の世界。まるで喉の奥が焼けそうな強力な熱風の前に一瞬戸惑ってしまった。だがスチームのような湿度が全くない。
「砂漠のような世界だな。本当に汗がにじみ出るのだろうか?」
 とりあえず空いているところに座る。スチームなら湿気でジメッとした床であるが、サウナは対照的にカラッとしていた。床が木でできているのも心地よい。

 高温サウナは、スチームと違いテレビがある。テレビを見ることで、気を紛らわせ、この劣悪な環境に居続けることができるのだ。
 正直息をするのもつらくなるような空間。無音のテレビではちょうどバラエティ番組を放送しているようだ。
「画面の先は、お気楽な芸能人たちがいろいろと楽しんでいるな。ま、これも仕事じゃないけどさ」
 と頭の中で思いにふけながら、この劣悪環境を耐え続ける。まさか聞こえたわけでもあるまいが、もう一度テレビを見ると画面がCMに代わっていた。予備校のCMのようなものが流れている。
 ここで頭の上の部分からざわめくような違和感が走った。「汗が出るぞ!」直感する。これは激辛料理を食べた時と同じよう感覚。他の部分と違い、髪が生えている頭の部分の下の温度は、余計に高そうだ。汗というものは真っ先に頭から出やすいのだろうか...…。

ーーーーーーー
「も、もういいかな」そろそろ限界が来ていた。すでに全身が汗だくとなっていて、スチームに入っている時と同じくらいの汗は出てきている気がする。テレビを見るとすでにバラエティは終わり、ニュース番組になっていた。
 立ち上がり、ゆっくりとサウナを出る。入れ替わりに別の人が入ってきた。外に出ると一気に涼しい風が全身を包んだ。「こんなに爽快なのか!」 
 スーパー銭湯の通常の浴室内がこんな爽快感があることを初めて知る。サウナの目の前には水風呂があった。スチームの時にはここには入らず、シャワーで汗を流していたが、今度は違う。
 洗面器を持ってきて水を入れて体に2回かける。冷たい水が一気に汗を追い出していく。そのまま、水風呂の中に片足を突っ込む。一瞬はわからない。どうやらまだ全身が熱を帯びているためだろう。だが両足を突っ込んだ時には、一気に水の冷たさが襲ってきた。

「ここで耐えるんだ!」そう心の中で叫ぶと、体をゆっくりと水の中に入れる。「これでも16度くらいあるのか」信じられないが、水風呂に設置された水温計はそのように示していた。体をゆっくりとつけていく。腰からやがて背中へ、さらに肩の近くまでゆっくりと入る。
「このまま」まだ顔が熱い火照っていた。「ならば」とそのまま顔も水中につける。ついに全身が水の中に入った。だがほんの2、3秒で顔出す。
「ふうー爽快だ」思わず声に出てしまう。幸いにも周りにだれもいない。
 数秒後水風呂を出た。「もう一回だな」こうして再びサウナルームへ。
 こうして低温スチームから、ついに高温サウナに無事デビューしたのだった。



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シリーズ 日々掌編短編小説 828/1000

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