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クリスマス・イブのデート 第701話・12.24

「おう、美羽、遅れた。悪いな」「ううん、拓海君、私も来たところ」
 いつもの場所で待ち合わせた、尾道拓海と今治美羽は幼馴染で、高校生になってから正式に交際をしていた。そしてふたりが付き合い始めて初めて迎えるクリスマスとあって、昨年までとは気分が違う。
「今日はクリスマスだから、いつもとは違う特別なところに行きたいわね」「うん、こんないつも公園にいてもつまらないな。町の中心部、繁華街に出よう」

 いつも以上に着飾ったふたりは、電車に乗ってターミナルのあるこの地域一番の繁華街に向かった。とはいえふたりは高校1年生。バイトをしているから多少はお金はあると言っても、大人のデートのように高級なレストランに行けるわけでもないし、ましてやホテルは少し早い。
「来たけど、やっぱり人多いね」駅の改札を出たふたりは目を見張った。いつも過ごすところと違いビルが立ち並ぶ繁華街。クリスマスイブの夜らしく、町そのものがイルミネーションの光輝いていた。そしてふたり以外にも多くの男女が楽しそうに歩いていて、それぞれのクリスマスを楽しんでいるかのよう。

 ふたりはそういう雰囲気を味わいながら、特に目的もなく街を歩く。「どこかお店を予約すればよかったわね」「あ、ああ、そうだな。でもどこも高そうだし」ふたりはひたすら歩き続ける。
 しかし、ちょうど天気予報でも気象予報士がいってたとおり「クリスマス寒波」が到来しているために非常に寒い。雪国ではないから雪は降らないが、風が強いのだ。かといって何も予定が決まっていないふたりは、ただ町の中を適当に歩くのみ。

「拓海君」しばらくして美羽がつまらなそうな表情になって口を開く。「うん?」「このまま歩いてもつまらないよ」
「わ、わかってるけど、困ったな」「もう帰る? 私たちには、まだこのにぎやかな街は、まだ早いのかもよ」
「う、うん、大学に入ってからの方がいいかもな」拓海の表情もやや険しく静かに頭を下げる。
「いや、別に大学生でなくてもいいけど、こう計画的というか何も決めなかったのが良くないかしら」「だけど、クリスマス似合いそうな店とか、いったい。どこなんだ?」
「そこが問題ね。来年のために今から準備する」「おい、まだクリスマスイブだぜ。何で来年の」「だったらどうするの!私もう疲れた。悪いけど先に帰るわ」

 クリスマスのデートに何の予定も決めていなかった拓海が悪いと言わんばかりに美羽は、不機嫌に駅に向かって歩き出した。「ち、ちょっと待ってくれ、なにこれ?一番盛り上がる日が一番ひどい日になってんじゃん」慌てて後追いかける拓海。せっかくのクリスマスなのに、ふたりにとって非常に険悪な空気が流れてしまう。

 美羽が先に歩くこと5分ほど、突然立ち止まった。「美羽、どうした」「ねえ、拓海君あれ見て?」美羽が指さす方をみる拓海。「あれ?教会」「みたいね。電気がついて何かしているみたいよ」「そ、そうか、クリスマスはキリスト教の祭りだもんな。教会では何かしているんだ」

 ふたりは教会の方に向かった。「あ、クリスマスイブ礼拝って書いているわ。19時からならこれからよ。行ってみる?」「いや、ちょっと待て、美羽、俺、仏教徒だし、これって信者の集まりだから、こんなの行ったらまずくね」

「そんなことないわ」美羽が否定する。「何で知っているの?美羽はクリスチャンじゃないだろう」
「ちがう。けど、一度クリスチャンの友達、山田さんと行ったことあるから知っている。確かみんなでクリスマスの歌を歌ったわ」
「え、ああ山田か。でもそれ俺、誘われてない、知らないぞ、なんだそれ?」少し不愉快そうな表情の拓海。だが美羽は即座に反論する。
「だってあの時拓海君、風邪ひいて熱出して、学校休んでたから誘えなかったもん」と、美羽の反論の前に、そのときのことを思い出したのか、少し動揺する拓海。
「あ、ああ、そうそう、中二のときだな。そのとき俺、冬休み前から休んでたから、そのまま冬休みに突入したんだ」拓海は思い出しながら手を頭の後ろにおいて照れ笑い。

「ねえ、拓海君、行きましょう。今日は何も予定がない。他に行くとこないし」美羽は拓海の腕をつかむ。
「そ、そうだな。でもさ、俺、教会行くの初めてだから、あとはお前に任せる」「うん」そう言ってふたりは、そのまま仲良く教会のクリスマス礼拝に行くのだった。

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シリーズ 日々掌編短編小説 701/1000

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