きっかけの日替わり 第1046話・12.9
「そうだ!写真に撮った日替わりランチのとき」俺は思い出した。ランチの店を見つけて食べたときこそが全ての始まりだということを...…。
あの日の昼休み、いつものようにお昼を食べに街に出た。
「行列が多いなぁ。やめておこう」大好きな店はいつもにまして行列が多い。ほかの候補を探してみるが、今日は天気が良いからだろうか?どこも満席だ。
「待つしかないのかなぁ...…」俺は腕を組みながらうなる。
「うん?あそこ行かないな」しばらく店を眺めていたが、このとき普段いかない道を見た。ということで俺は歩いてみる。「このあたりでお昼を食べるようになって間もなく1年がたつというのに、意外に知らないな」
俺は久しぶりに冒険心がくすぐった。
「ほう、新鮮だ」この通りは店は少ないが並木道が続いている。お店もいつもの通りのように派手な看板が羅列していない。どちらかと言えば少しハイソでオシャレなカフェが並んでいるようだ。
「いつもとは違う雰囲気だな。でもランチはやっているのかな?」俺はそう見ながら店を見てみた。やっているようだ。だがその先を見ると満席か、あとは若い女性が多く、まもなく「おじさん」と言われる年代になりつつある俺がひとりで入るのには少し敷居が高い。
「なかなか、入りづらいな。あ、ここは」俺はようやく一軒の店を見つけた。あまりお客さんが入っていないようだが、入っている客層も、俺より少し年代が高そうな大人の店の雰囲気。ひとりで静かに過ごしている人もいたので、ここに入ってみることにした。
中はこのストリートの他の店同様に、ヨーロッパを意識した洋風のスタイル。だが俺が見た感じではずいぶんと年季が入っているような気がする。昭和のころからあるのかもしれない。こうして日替わりランチを注文する。登場したのはシチューの定食であった。
このとき何気なく食べる前に撮影をする。普段はラーメンとかとんかつとかそういうものばかり食べているので、珍しさもあったのだろう。こうしてランチをいただいた。普段食べないから新鮮さもあったが、とにかくうまい。だが食べている最中に何気なく視線を店内に向けると、壁に気になることが書いてあった。
「年内で閉店します」と書いてある。
「なんと、それは残念だ」俺は思った。見たところ髪の白い夫婦が店をやっているようだ。恐らく引退をするということかもしれない。
「どんなものがあるんだろう」俺は、この店が気になり、もし機会があれば再訪しようと考えた。そこで改めてメニューを見る。
「ほう、フレンチのコースがあるのか。ワインリストもあるな」
クリスマスのデートには最適な気がした。手作りでケーキも作っているという。だが俺にはクリスマスを過ごすような相手はいない。だからそのときはそのまま会計を済ませて戻るだけであった。
ーーーーーーー
転機が訪れたのはそれから数日してから、もしかしたらの出会いがあったのだ。「ほんとうにどこに縁があるのやら」詳しいことは書かないが少なくとも年相応の異性と知り合うことができた。初めて会ったのに凄く会話が弾んだが、その知り合った相手も、今年もクリスマスをひとりで過ごすことになるようなことを言いだす。「これは!」
俺にとってはまたとないチャンス。恐る恐る相手にデートの誘いをしたらOKが出た。今年はいつもと違うクリスマスになることに俺は冬なのに春が来た気がしたのだ。
「とはいえ、どこに誘えばいいのだろう」俺は誘ったのは良いが、どこにデートに連れて行けばいいかがわからない。「映画を見るところからスタートするのは良いが、その後どこで食事をしようか?やはり高級なホテルがいいかな。でもそんな高級な店行ったことがないし、緊張して自滅したら、せっかくのチャンスが水の泡になってしまう...…」
俺の頭の中ではあれこれ考えるが、考えれば考えるど、どうして良いのかわからない。
その時であった。あの時の日替わりランチの写真がスマホから出てきたのは。「ここいいかも?」俺はひらめいた。今年で終わるお店、それもフレンチのコースも用意しているという。恐らくホテルのコースと比べると家庭料理のようなものかもしれないが、そもそもフレンチのことをよく知らないからそのあたりはこだわる必要はない気がした。
「あそこなら緊張しないだろう。予算もそんなに高くない」
もちろん相手がフレンチに精通していたらどうしようかとは思った。だけど、多分大丈夫だろう。まったくの直感だがそんな気がするのだ。
そう思った俺はさっそくお店に電話をした。再訪したいと思っていたからショップのカードをもらってきていたのだ。予約をすると予約が無事に取れる。「さて、どうなるかな。一緒にいたら凄く落ち着く気がしたし、まあ肩ひじ張らずに楽しめたらいいと思う」
俺はクリスマスを前にカウントダウンをしながらその日を待つのだった。
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