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七五三で味わった珍事

「Seven Five three! エドワードこれね」「そういえば、俺の子どものときって、七五三やってたかなあ」
 エドワードこと江藤と英国人女性ジェーンは、住んでいる所の近くにある神社に来ていた。その理由はジェーンが11月15日の風習「七五三」を一度見たいといったからである。

 神社の境内には何組ものファミリーがいた。特にこどもは着物姿で少し大きな女の子と地位な女の子。そして男の子がいる。
「七と三が女の子で、五が男の子ね」「そう、元々の由来って徳川綱吉の子どもの健康を祝うために始まったって、ネットに書いてあった」
「へえ、エドワードそうなんだ。ツナヨシって人、犬を大切にしたんだよね」「え、ああ生類憐みの令。たしかにそうだな」

 カップルとはいえ、子供はおろか結婚ともまだ遠いふたり。でも本来関係ないこの行事の様子を客観的にみていると、和気あいあいと写真を撮ったり千歳飴を手にしたりしているファミリーばかりである。
 我がことのように微笑ましく眺めていた。

「エドワード!せっかくだから、神社のサンパイするわよ」
「え、お前クリスチャンじゃ」という江藤に対して、ジェーンは金髪をなびかせながら首を横に振る。「いいの、いつも言っている通り、日本の風習好きだから、見よう見まねでやってみるだけ」

 そういってふたりは神社の拝殿正面の階段を上った。

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 こうして参拝を無事に終える。お互い何を神に願ったのか?それはわからない。ひきつづき拝殿を眺めてみた。ちょうど腰近くまでが段差がある。そこには袴を着用して千歳飴とジュースを持った5歳の男の子。彼はこの日を楽しみにしていたのか、調子に乗って足を跳ねながらおどけている。
「大丈夫かな。あの子」ちょっと心配した江藤。その数秒後、心配した通りになってしまった。
 男の子は突然バランスを崩した。神社の段差の上から足を滑らせてそのアまま倒れてくる。一瞬江藤にぶつかったが、その後に地面に倒れこんだようだ。
「あれれ、大丈夫?」江藤は男の子が千歳飴が落ちているのを拾おうとすると突然「なんじゃ!」と、どすが聞いたような男の大声が聞こえる。

「お前!、お、おれのスーツを汚してんじゃねぇ!」男の子はまだ自分の置かれている状況がわからないが、見知らぬ大人の男の大声と、鋭し線に睨まれ体が震えだす。慌てて子供の両親が近寄りながら、「申し訳ございません」と平謝り。だが男の怒りは収まらない。

「うざいガキ。そこドケ!」角刈りでサングラス姿、見た目からして堅気には到底見えない、白いスーツ姿の男。今度は突然男の子の脇腹を容赦なくけり倒す。「キャー何するの!」母親は慌てて子供の所に行って体を覆いかぶさった。子供は腹を抑えて泣き始める。
「お前がクソガキの親か!この汚れどうしてくれるんじゃ」と、オレンジに染まったスーツのズボンの部分を指さしながら、男は次に母親の背中を蹴る。「キャー痛い!」
 父親が慌てて男の前に来て「これで、どうかお許しを」と一万円札を数枚男に渡そうとした。
だが男はそのお金を奪い取ると、今度は父親を殴る。
「こんな金額で足りると思ってんじゃねえよ!昨日がパチンコの日だから行ったら大当たりして、やっと念願のスーツ勝ったんじゃ。大事なブランド物をこのクソガキが!」

「何あいつ、許せない!」一部始終を見たジェーンは目を吊り上げながら男のほうに向かう。
「ジェーン!まて、やめろ」
 しかしジェーンは男と親子の間に立ちはだかる。「おい、お前!これ以上親子を傷つけるのはやめろ」
「なんじゃお前、関係ない奴はドケ!」

 しかしジェーンは動かない。親子のとの間に入って、ファイティングポーズをとって戦う構えを見せる。今日はスカートではなく黒いパンツ姿と言うのも良かった。
「ドケ外人!白人の女だろうが、邪魔をすると許さん!」
 ところががジェーンは挑発した。「白人を舐めんじゃねえ。お前みたいなやつはジャップ野郎で十分だ」

「ウラァ!おまえから殺ってやる!」と男は怒り狂って、ついにジェーンに向かて腕を伸ばす。 
 するとジェーンは後ろにさがってすぐに男との距離を取る。そして殴りかかろうとする男の攻撃を、左右に体を動かして見事にかわす。食らわしたパンチがいつまでも当たらないことで、さらにいら立つ男。
 ジェーンは余裕があるのか。笑顔でゆっくりとさらに後退する。
「ッグウグウウォーグラァ」ジェーンの笑顔でさらに怒りがこみ上げた男は、狂ったような大声。気が付けばふたりを遠巻きにした多くの人が様子を見ていた。

 ジェーンはどんどん後ろにあとずさり、一瞬後ろを振り向いたが、そこで顔色が変わる。すぐ後ろが壁になっていて、いつの間にか逃げ場がなくなっていた。「え?マジ!」
 男はズボンからナイフを取り出し、ジェーンに突きつける。「死ね!オラァ」と、そのまま突進するかのように走ってきた。先ほど違ってジェーンの表情は険しい。

「まずいジェーン、逃げろ!」と叫ぶ江藤。そのとき目の前に男の子が落とした千歳飴の袋を見つける。とっさにそれを取ると、男めがけて投げつけた。
「イテ、何じゃオラぁ」袋は男の横顔をかするように命中。その瞬間ジェーンは横に逃げた。男は止まろうとするが、勢いよく走っていてかつ視覚がさえぎられたために、バランスを崩しそのまま壁に顔が激突。「ぐぎゅ!き、貴様!痛ぁ!」と大声を出したが、顔に手を当てながらその場でうずくまる。

 そこに駆けつけてきたのは警察官。「だれか通報してくれたのか」江藤は、慌ててジェーンの元に駆け寄る。
「間違いない。こいつです」「捕まえろ」と男は数人の警官にその場で取り押さえられる。顔を抑え、痛そうに眉間にしわを寄せている男と数名の警官はその場を後にした。

「ジェーン!もう、こういうのマジでやばいからやめろよ」「ちょっと焦ったけど、ダイエットを兼ねて最近始めた護身術が役に立ったわ!」と口は緩むがジェーンの体が震えている。
「あ、そうそう子供のときに空手を習っていたら、体が勝手に動いてくれたのかしら。でもエドワード、危機を助けてくれてありがとう」と言ってジェーンは江藤に抱き着いた。

 警官のひとりが近づいてきた。「ご協力ありがとうございます。この男は最近この界隈で暴れまわっている、ひったくり犯でした。お怪我、あ、Do you know Japanese?」「あ、大丈夫です。日本語得意よ。Thank you!」

「そうですか。では状況を確認したいので、お忙しいところ申し訳ございませんが、近くの交番までご同行願います」
「Ok エドワード行くわよ」と言って警官と共に神社の境内を後にするふたり。ここでジェーンが振り向いた。静かに頭を下げる両親。そしてすでに泣き止んで、笑顔で手を振る男の子がいるのだった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 299

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