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闇の三題噺大会 前編

この物語はこちらの世界観のその後です。

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「あんた、大丈夫。こんなのに参加して」心配そうな表情をしている、フィリピン妻・マリエルを全く気にせず、参加申し込みの手続きを自前のタブレットで操作している小田切康夫。
「マリエル気にするなよ。せっかくの九笑亭魔法陣(きゅうしょうていまほうじん)さんからもらった大会の招待だ。あの人バーにいきなり来て、突然落語を披露したときには、ずいぶん緊張した。だけどまあ、あれから交流もあって、いい関係が出来ている。せっかくのお誘いじゃないか。受けてあげようよ」

「で、でも、裏落語の世界って大丈夫かしら『闇の三題噺大会』ってやばそうよ」だが、康夫は首を2・3回横に振る。
「まあそれを言っちゃ、俺だって深夜営業のバーテンダーなんだよ。たとえやくざが来店してたって、まっとうに金を払ってくれりゃ、おれは大切なお客様として接客するんだ。それよりも裏落語の世界がどんなものか非常に気になる。マリエル当日は一緒に行こう。これ参加したら、むしろ常連客相手に話のネタになるよ」

 そして名前などを確認する康夫、名前は高座名である「呂宋家 真仁羅(るそんやまにら)」として。

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「ここか、普段はこないな」そこは繁華街の路地。魔法陣から改めてもらった地図を頼りに、路地の奥に入っていく。「迷路のようだな。えっと次が右、ですぐの三差路を斜め左か」
 やがてある古びたビルの前に来た。「ここのようだが」「なんか怖いわね肝試しみたい」康夫がドアのノブを回して空ける。きしむような音がした。マリエルと恐る恐る中に入ると、蛍光灯がついているので明るい。だが倉庫の棚のようなものが建物内に張り巡らされ、通路が人がひとり入れるような小道になっている。複雑な迷路のようになっていた。
「えっと、こっちだ」迷路のひとつを入っていき、地図に従い、右に左に何度か曲がる。やがて端っこか?左側にドアがある場所に来た。そのドアノブを回して引っ張ると、重たいが今度は音がしない。ただ地下に通じる階段になっていた。「なんか不気味ね。こんなところ普通は」「ああ、闇の世界だな。とりあえず行ってみよう」

 らせん状になっている階段をゆっくりと降りていく。真っ暗で奥がほとんど見えない。康夫は前で少し錆が入った手すりを持ちながら、マリエルも手すりと康夫の体をもちながら、ゆっくりと降りていく。この階段がやたらと長い。ようやく下まで来ると。大きなドアが見える。「三度目の正直かな」 
 そうつぶやいた康夫がドアノブに手をかけて回すと、今までの中で一番軽くドアが開く。開けると直線の廊下が続いていた。まっすぐに歩く照明はないが視界はわかる。突き当りまで来ると右しか道がない。そのまま進む遠くにまたドアがある。その前に来るがドアノブはない。ドアの左手にカードを差し込めるところがある。
「あ、同封されていたカード」「あ、これか」康夫はポケットから参加表明後に送られてきた、白いカードを取り出すと差し込む。緑のランプがついた、ここでカードを抜くとドアは自動的に開く。そして目の前に突然視界が開けた。

 黒い壁で覆われているが吹き抜けの天井からの光があり、明るい。目の前には舞台があり、中央に台がある。その上には赤い座布団が置いてあった。
「あそこが舞台か」そしてその前にはパイプ椅子が並んでいる。見たところ200人以上の人がいて、パイプ椅子に座って舞台のほうに視線を送っている。
「マリエル。どうやら着いたようだ」「ふう、これだと明るいし、ちょっと安心かな」「お客様。ご予約でしょうか?」と表れたのは、サングラスに黒いマスク姿の黒服の男。よく見るとこの受付をはじめスタッフらしき人物は一堂にそういういでたちだ。

「あ、呂宋家 真仁羅です。参加者の」「あ、失礼しました。どうぞこちらでございます」とスタッフに案内される康夫。
 案内されたのは部隊の左端の最前列の席ふたつ。「いい席ねえ」「お前は見てるだけだからな。俺あそこで演じるのか?もう緊張してきた」

「あ、あそこ」マリエルが指さすとスキンヘッドの男が待機している。「あ、魔法陣さんだ。もう始めるのか」

 ここで場内のアナウンスが流れる。「それではお待たせしました。ただいまから裏落語杯・闇三題噺大会の後半・第二部が始まります」

「第二部。すでに一部は終わったのかしら」「だけど、魔法陣さんからはこの時間に来るように言われたんだ」康夫は時計を見る。
「間違いない。時間はちょうどだ。それに受付も不思議な顔をしなかった。だから俺、後半なんだろうな」

「さて、第二部最初は九笑亭魔法陣。我が裏落語会ではおなじみの実力者です」司会のアナウンス後、左手から魔法陣がゆっくりと入ってきた。
「でもいきなりだね」「ああ、挨拶しようと、どこにいるのかと思ってたのに、舞台でお会いするとは」

 スンヘッドでの和服姿の魔法陣がゆっくり座り一礼する。すぐに口が開いた。

さて、さっそくではございますが三題噺を始めさせていただきたいと思います。12月に入りますと、いよいよ次の年にむけてこうソワソワ致します。さて来年をどういう一年にしようかと頭を捻りましたら、逆に過去を思い出しちゃいました。

じゃあ昨年でもいいやと、どんなことがあったのかと考えておりましたら、ひとりの女性が浮かあがります。

「今年にはまだクリスマスがあるのに、ついつい一年を見返りしちゃうわね。ダメダメ未来を見ないと」と気が付けば、公園の敷地内に入っていました。そしてそこにいるのはカップルばっかりです。

「あれ?周りのカップル全然いちゃついていない。女の人がみんなあんなにツンツンしていているわ。でも仲が悪そうでないし、何で?流行ってるの。見返りか何かあるのかしら。まるで増えるツンデレってとこね。よし、じゃあ私も今からツンデレで行くわよ!」と、気合を入れました。

 だがその数秒後、衝撃の事実。自分にはまずツンツンする相手がいないという現実に、女性はそのまま頭を抱えてしまいました。

 ここで頭を下げるる魔法陣。会場からは拍手がちらほら起こった。「はい、ありがとうございます。さすがは魔法陣。安定した三題話でした。ではつぎは、新鋭の」

「あ!お、お待ちしておりました真仁羅さん」康夫が左を見ると、演じたばかりの魔法陣がいる。康夫とマリエルのほうに来て挨拶をした。ふたりも立ち上がって応じる。そして康夫が座っている右隣の空いている席に座った。
「あ、いえ、この度はお誘いいただいてありがとうございます」

「いかがですかな、裏落語の世界」「え、あ、魔法陣さん!さすがですね短い中に3つのキーワードを見事に」「いやいや、私のではなく裏落語の雰囲気ですよ」
「不思議です。たどりつくまで大変でしたわ」とマリエルが少し面倒な口調で返す。

「ハハア、最初はそうかもしれません。そのうち慣れますよ」「なれますよって!そんなに頻繁に来る気ないのに」言葉は出さないが、頭の中で戸惑う康夫。
「実は今回の闇三題噺大会は50名参加します。第一部25名が終わって、30分休憩後の第二部のトップが私。いやあこの舞台はホームグラウンドですがね。先頭ってのはちょっと緊張しました」

「あ、あのうちなみに私は」康夫は恐る恐る質問。「あれ、何も情報来てませんか?真仁羅さんはラストですよ」
「ら、ラスト!わ、私がですか!」康夫はまさかの展開に、背中から生ぬるい液体が流れるのだった。

(つづく)



こちらの企画に仮参加してみました。

「仮参加」にした理由ですが、この企画の参加条件に有料設定と言うのがあったからです。私は企画はもちろん、普段でもnoteの有料記事は今まで書いたことがありません。(設定方法は知っています。それは電子書籍を発行する際に、推敲するための記事を隠すときに使っています)
 そのような状態なので有料設定にする意味が良く分かっていません。企画では無料記事が条件と言うところが多いので余計に混乱しています。募集要項を何度か確認ましたが、その理由には触れていません。

※個人的には有料にすると、せっかくの読者に避けられる可能性が高まるので、全文読める投げ銭だとしても苦手なのです。

 この話は3夜連続でお届けします。今日は前編ですが、後日に(明日と言ってましたが色々変えたいので未定)中編、後編とあります。企画参加になぜ有料設定が条件になっているのか?よくわからないので、とりあえず、今日次回は無料。最終日までに有料設定の意味が理解できれば、最終日の記事については有料記事として正式参加しようと思います。

ややこしいですが、どうぞよろしくお願いします。


こちらもよろしくお願いします。

※そよかぜのアドベントカレンダーの2日目


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シリーズ 日々掌編短編小説 317

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