700グラムの七面鳥 第700話・12.23
「あ、届いたわ」海野沙羅は宅配便がドアの前に来たことで思わず声を上げる。「ありがとうございます」予想通りのものが届いていたので早速キッチンに。
「本当は丸焼きがいちばんだけど、ふたりじゃね」沙羅がそう言って開けたのは700グラムの七面鳥だ。
「これで少しは喜ぶかな」沙羅は昨年のクリスマスを思い出した。
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「うん、おいしい、見事な焼き具合だ」昨年もふたりで小さなクリスマスパーティーをした沙羅と夫の勝男。グルメなふたりとあって、料理にもこだわりがある。
「ハーブ焼というのもよかった。鶏の中にしっかりハーブの香りが染みついている」勝男は上機嫌に鶏を食べながら、クリスマスだからといつもより1000円高い、少しリッチなワインを口に含む。
そして見事に完食。「後でケーキね」とこれもまた予約してあったクリスマスケーキを、冷蔵庫の中に冷やしていた。
「でも無理だよな」勝男の次の一言が沙羅は見逃さない。「無理って何?」「いや、以前会社の同僚らとクリスマスパーティをしたときにさ、七面鳥の丸焼きを食べたんだ。あれは美味しかった」
「七面鳥って、ターキーのことね。そういえば私は食べたことないかも」「そうだったか、七面鳥は鶏肉と違って肉自体にうまみがあったような気がする。ただでかいんだ。ふたりじゃ無理だな」
ワインを口にしながら勝男はそうつぶやいた。
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「あれから1年か」沙羅は自らも食べて見たかったから、ふたりでも食べられそうな小さな丸の七面鳥がないか探してみた。だが、小さいものでも4・5人で食べるものばかり。「残りは後日に食べるしかないかしら」と思っていたら、700グラムで販売している七面鳥を先月発見した。
「むね肉。これならふたりでも」と早速購入してこの日到着した。
沙羅はさっそく仕込みに入る。「今年もハーブは、生のローズマリーとタイムを手に入れた。チキンがターキーに代わってどうなるかね」
沙羅は昨年と同じように肉に下味をつけて生ハーブを合わせてオーブンに入れる。もちろん付け合わせのジャガイモやニンジンなども準備し終わっていた。こうしてオーブンに入れて焼き始める。
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「ただいま」仕事から帰ってきた勝男は、手にプレゼントらしきものを持ってきていた。
「おかえりなさい。きょうは七面鳥手に入れたよ」「な、何?七面鳥、うちのオーブンで入るのか、デカいぞ」驚いた表情の勝男。それを見て沙羅は思わず笑みが口元からこぼれる。「丸じゃないんだけど、700グラムの胸肉ネットで売ってたから」
それを聞いた勝男、まさか七面鳥が食べられると思わなかったので、それからは黙ってはいるが、その後ろ姿からは喜びを全身から湧き出しているのがわかる。そのまま着替えに自室に行った。
こうして生ハーブの香りに包まれたローストチキンならぬローストターキーが食卓の前に並んだ。「今日も昨年と同じワイン。ただ年代が違うから味はどうだろうなあ」
勝男はそういうとワインのコルクを開ける。こうして今年のふたりだけのクリスマスパーティが始まった。
「うん、これだ。懐かしいターキーの味。いやあ、よく見つけたな」満面の笑みで食べる勝男、沙羅はそれを見ているだけでうれしい。「私は初めてだけど、やっぱりターキーはチキンとは違うわ」とかみしめるようにローストターキーを口の中に入れた。
「そうだ、これはクリスマスプレゼント」と勝男。お互いこのときはプレゼントを交換し合う。勝男は沙羅にプレゼントを手渡す。「まあ、素敵、ありがとう」と沙羅。勝男はワインを口に含むと目をつぶり、静かにその味をかみしめている。そして喉に流し込むと口を開いた。
「あの、確認だけど俺のプレゼントって、もしかしてこれか?」とフォークでローストターキーを指す。沙羅は笑いながら「もちろん、それとは別にあるわ。今取りに行ってくる」と言って立ち上がった。
追記:700本まで行きました。目標まであと300本、引き続きよろしくお願いします。
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シリーズ 日々掌編短編小説 700/1000
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