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行った国行ってみたい国 第1074話・1.10

「やらなくては」そう自分自身に言い聞かせる。以前は凄いやる気があったのに最近はずいぶんと気力が萎えてきた。理由はわからない。人間とは楽していきたいからそういう風になるのだろうか?

「そんなに、必死になってどうする」

「誰だ?」見たが誰もいない。だがわかった。こいつのせいだと。こいつはやる気をなくさせる存在。一般的に悪魔と読んでいる奴のささやきに違いない。

「勘違いしているようだが、悪魔じゃないぜ」

また聞こえた。「相手にするな、相手にしたら向こうの思うつぼ」そう思い無視していたが、相手はしつこく何か言ってくる。

「ふん、そんなことより、そろそろ国外に出かけてみるのはどうだい」

「外国だと?」思わず反応した。外国に渡航経験はある。最後に行ったのは3年ほど前だっただろう。だが最近は移動するにしても国内にとどまっていた。

「ようやく、相手してくれたな。で、過去にどんな国に行ったんだ」

「えっと...…」気が付けば相手のペースにはまっている。だが海外の事を思い出した。言葉が通じないし、通貨も違う。それよりも文化が微妙に違うから、日本のペースで過ごせない。だが、かつて毎年のように海外に行った時には、その不完全な状況を非日常として楽しんだ。

「日本では当たり前なことができない。だから空港から降りたら最後、その国のペースに合わせないといけないから、五感を駆使して必死に情報収集をしたものだ」どんどん過去に行った国の事が頭に思い浮かぶ。

 当時行った国といえば、どちらかと言えば日本に近かった。中国や韓国、台湾あたりが特に多かった気がする。ときおり東南アジア、それからオーストラリア、一度だけインドにもいったことがあるのだ。

「ずいぶんいろんな国に行っているな。でも近場が多いようだが」

「なぜ?」一瞬耳を疑った。今別に口から声を出したわけではない。ただ過去の記憶を思い出され、頭の中からその時の状況がイメージされた。過去に行った国のことのなつかしさが頭の中で浮かんだだけである。なのになぜわかったのだ?

 当然ながら警戒した。余計なことを思い出せば読まれている。目に見えない相手は高次元の存在とでもいうのだろうか?だから頭の中を真っ白にした。目をつぶり瞑想し、無心を貫く。

「そんなに警戒するなよ、ところでこれから行ったみたい国なんてないのか?」
 これも読まれている。無心のつもりなのに、相手にそのことがわかってしまった。ついついそれに反応してしまう。「勝ち目のない相手か」ここで、謎の相手に対抗することをやめた。

「行きたい国かあ」ここで相手に読まれることを承知のうえで、考えてみることにする。行きたい国と言われれば当然今まで行ったことのない国だ。ヨーロッパやアメリカが浮かんでくる。いやまだあるぞ。例えばアフリカはどうだ?アフリカはエジプトや南アフリカなどの一部を除いて、どこにどんな国があるのか一瞬わからない。だがそこには多くの国がある。
 ヨーロッパやアメリカは白人が多いというの同様に、アフリカは黒人が多くて区別がつかない。だがそれはヨーロッパも同じ。一目でイギリス人とフランス人を見分ける人が世の中にどのくらいいるのか?

「アフリカ未知の国だ。それぞれの国、国境を越えれば違う文化圏なのかもしれないが、行ってみないとわからないな」
 いつしか行ったことのある国で陸路を越えたことがあった。島国である日本と違い、ある場所から先が別の国と言われてもピンとこないが、現実に国境を越えると、全く違う国になっている。
 
 そこは言葉は近かったが、微妙に違うし、使用している文字も違う。もちろん通貨も違えば、通貨の表示している数字とその価値も違うから、一から頭の中で日本とのレートの違いを頭の中で計算しなければならないのだ。
「そう考えるとユーロ圏は楽そうかな」ヨーロッパは国が違っても相当共通しているようだと聞く。と言っても行ったことが無いから、想像の範囲内に過ぎない。アフリカ同様ヨーロッパもまた未知の国だから一度入ってみたい国ではあるだろう。

「なるほど、行ったことにない国に行ってみたい。だとすればチャンスがあれば海外に行く方のがいいだろう。そのためには準備せねばな」

 そこまでいうと、謎の声は消え、以降は全く反応しなくなった。

「海外か」ここで考えてみる。海外に行くにはお金が必要だ。それから知識もいるだろう。
「よし、うかうかしていられないな。海外に行くために努力しなければ」こうしてそれまでのやる気のなさが突然一変する。
 どうやら声の主は、悪魔ではなく天使の方だったのかもしれないと思った。

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シリーズ 日々掌編短編小説 1074/1000

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