「新宿・歌舞伎町の怖い話」読書感想文
以下は「新宿・歌舞伎町の怖い話」(インディ著 イースト・プレス刊)をYoutubeでレビューした際に読み上げた原稿です。
まず、この本は三部構成になってるんですね。第一章が心霊、第二章が人怖、そして第三章に、著者が心霊懐疑派になったきっかけの出来事が書かれているんです。
著者は現在心霊懐疑派なんですけれども、本の構成もそれをなぞるように、まず心霊話があって、次にヒトコワになる。そして、その理由が最後に明かされる、と。
一つ一つの話だけでなく、一冊の本全体でオチがついているっていう、怪談本には珍しい構成なんですね。これだけでも他の怪談本とは印象がかなり違ってまして、独自の存在感があると思うんですが。
この第三章がですね、私はこれを、インディさんの心霊譚に対する譲歩ではないかと思ったんですね。直接ご本人に訊いたところ、ご本人は「Back to basic」という言い方をしておられまして、「コミュニケーションとしての怪談」という結論に行きついたようなんですね。「真偽のほどは定かじゃないけど怪談喋ってコミュニケーション取れるんならそれでいいんじゃない」っていう。まあ、この結論を私は譲歩と捉えたんですけれども、「アンチ怪談」と捉える人もいて、実際にインディさんはこの本を読んだ方にそう言われたそうなんですね、「アンチ怪談じゃないすか」って。どう捉えるかはホント人それぞれ違うんで、これについては是非皆さん、ご自身で読んで、ご自身で判断して欲しいですね。
で、第一章、第二章の怪談部分なんですけれども、これがものすごくバリエーション豊かなんですよ。ちなみにこの本には3つの側面があるんですよ。一つは勿論怪談集。もう一つは著者の半生記。著者が今までどんな人達からどんな話を聞いてきて、いかにして心霊譚から人怖へ転向するに至ったか、という半自伝的な側面。で、最後にエピソード集という側面。
怪談集って元々エピソード集な訳ですけれども、この本は特に新聞の三面記事を集めたようなバラエティの豊かさというか混沌とした部分があるんですね。週刊誌のゴシップ記事から、人を傷つける要素を抜いたような。
昔、アメリカの田舎を回っていたようなサーカスを思い浮かべていただけると良いですかね、この本一冊が丸ごとサーカスみたいなものなんですよ。明るくクリーンなボリショイサーカスみたいな健全な奴じゃなくて、どことなく暗くて怖い感じの。昔はサーカスって「子供を攫ってサーカスで働かせている」みたいな、怖い噂が立てられたりしてたんですよね。そういう時代のサーカスみたいな感じなんですよ、この本はインディさんによるインディサーカス団の全国公演なんですよ。ちょっと普通に生活してたら聞けないような話を盗み聞きするようなドキドキ感というか、後ろ暗い好奇心を刺激するようなところがあるんですね。心霊にしろ人怖にしろ、この本のエピソードに共通するのはそこなんですよ。普段、世間から隠されている闇の部分をチラ見せするような。表向きはそうなってるけど、本当はこうなってるんだよって見せてくれるような感じ。そういう、影に押し込められている、日の当たらない人々やエピソード達への思いやりというか、優しさみたいなものを感じるんですよ。
ちなみに、インディさんの文章ってすごく読みやすいんですけれども、過不足がないんですよね。過剰でもなく足りないわけでもなく、という感じで、これはインディさんがバーテンやっておられるのと関係があるかもしれないんですけれども。しょっちゅう酔っ払いを相手にしてる訳ですから、酔っ払い相手に話をするには端的に、でも不足なく伝えないといけないので、それが文章にも出てるのかなあと思いましたね。実際お酒飲んでういーって言いながらこの本読んでもすーっと頭に入ってくるんですね。なので非常に読みやすいです。この本は本当にお勧めなんで、皆さん、是非読んで欲しいですね。
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