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魂は宇宙からおりてくる。玉三郎さんと、魂の話。

坂東玉三郎さんのお話と地唄舞に行ったときのこと。
こころ震えたのでシェアさせていただきます。

”肉体と精神と魂が合わさる経験はありましたか?”

事前に募っていた観客からの質問。あまりにも深い問いに、しばし沈黙され、やがて凛とした声で語りはじめた。

肉体を鍛錬し、精神を使って、修行を重ねて、
ようやく”魂”をお見せすることができるではないでしょうか。
肉体や精神は自分自身のもの、しかし”魂”は自分では動かせないもの。
たとえて言うなら、魂とは宇宙から与えられるもの。
お客様に魂をお届けしたいと常々思っていても伝わらない時もある。

毎日が精進の連続です、と答えられた。ほかに―

「藤娘の役をどう踊ったらよいか」
この役はなにも考えずに踊るのがいいんです。

「体形を保つためにどんなことをされていますか」
それを丁寧にお教えしたとして、その通り実践なさる覚悟がおありですか。
(眼きらり) イジワルな答えに場内に拍手と笑い声。

「好きな演目は?逆に嫌いな演目は?」
嫌いなものはワタクシ演りませんから。

など、ユーモアを交えながら真剣に答えてくださった。

歌舞伎のお化粧について

日本女性は化粧に詳しい。しかし、一般の化粧と舞台の化粧では使う道具も塗る顔料もまったく異次元だ。
玉三郎さんは生身の男性から女形に成るため、力士さんのビンつけ油に近しいものを練り合わせて下地を塗り、その上に水溶性の白粉をのばしてベースを整える。玉三郎さんは、その油にこだわりがあり10年以上寝かした柔らかい油(ポマード状?)を使用し、まだ若い(!)油と混ぜ合わせ配合し自分仕様の下地をつくる。ほぼ1時間かけるお化粧のうち、下地つくりに30-40分強、梅雨時は乾きにくいため団扇うちわであおぐ苦労もあるとか。その後、お顔だけでなく首元などにも白粉をのばし、眉や目張りを描き、最後に紅をひく。
お化粧のポイントも役柄によって異なる。若い娘のときは両眉の間や目頭を少し離したり、高貴な女性役の時は富士額ふじびたいを整えたり、”歌舞伎ならではの映え”があるという。


そして、地歌と三玄の富山親子演奏のあと、お化粧や衣装をほどこさない素踊りを舞われた。

地唄舞「雪」

”しんしんと雪がふる夜、愛しいひとのことを想いだす。
今ごろどうしているかしら。もう私のことなど忘れたかしら。
寂しい、会いたい。なんで別れちゃったんだろう。” (私的解釈)

情感たっぷりだった。ただ、もし若い時にこの舞をみたら
「シンキクサイ(素っ気ない、愛嬌の無い)踊りやな」と感じたに違いない。
50を超え、人生も半ばを過ぎそろそろ集大成の円熟世代だからこそ、踊りの間合いに哀憐や惜別を受けとめることができた。

玉三郎さんの魂をたしかにいただいた、そんな気がした。
芸の道に真摯にむきあう姿に、ただただ感銘するほかなかった。
そんな誕生日の午後だった。

アフター・ヤン


友人と早めに夕食をつまんだ帰り、気になっていた映画へ。

偶然にもこちらも”魂”の映画だった。大好きなA24映画でもあり。大阪アジアン映画祭で「コロンブス」の美しい映像が話題になっていた、コゴナダ監督の長編第二作「アフター・ヤン」。
娘ミカの家庭教師兼お兄ちゃんとして雇用していたAI・ヤンの肉体が動かなくなり、精神(頭脳)は止まったまま。しかし、彼の記録装置には残しておきたい"記憶”が残されていた。AIにも想いや自我がある、カズオ・イシグロの「クララとおひさま」を彷彿させる物語。失ったかなしみを超える静謐な美しさだった。邦画の小津安二郎に傾倒した監督らしい。


とくに、ファミリーダンス・バトル、めちゃ最高!ダンスは見たいし、シュールでダンサブルな音楽もいいし、機械的なAI音声と日本語字幕、タイトルバック(英文)に集中できず全く読めなかったが(笑) 
音楽には坂本龍一が関わってるのも納得。

ひとつだけ気になることがある。お兄ちゃんの日本語訳はガァガァとなっていたのに違和感。グゥグゥ、またはクゥクゥのほうが近いんではないかな。

アフター・ヤン AFTER YANG ★★★★☆
アメリカ・2021年
監督・脚本:コゴナダ
出演:コリン・ファレル、ジョディ・タナー=スミス、ジャスティン・H・ミン





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