破局/赤頭巾ちゃん気をつけて ふたつの青春小説:芥川賞ぜんぶ
7月19日、第169回芥川賞が発表され、なかなか追いつかない上にさらに読むべき本がずしんとのっかってきた、2023年盛夏。ほんま毎日暑すぎる。
2000年代の「破局」と昭和後期の「赤頭巾ちゃん 気をつけて」。二冊の共通点は主人公が男性で、幼い頃から「女の子にはやさしく接しないとダメだ」と教えられて育ったこと。かたや22歳就活真っ只中の陽介、こなた18歳の東大受験をやめざるを得ない薫くん。
ふたりの青春は1ミリも似ていない、女の子を大切に扱う点以外は。
破 局
●第163回芥川賞 2020年上期 遠野 遥
34冊目/113
主人公の陽介は、ラグビーで鍛え上げた筋肉の鎧をまとい、常にマナーや他人の目に気をつかい、公務員をめざしている私立大学4年生。
「セックスと肉が好き」なのは普通の20代男性と変わらないが、何事につけても「○○すべき」「○○だから当然だろう」と冷静にかまえる性格は本当の彼ではないのではないか。感情をおさえ個性を消去し、女性には優しく、他人には不快感を与えないように幼少期から育ってきたとすれば、子供らしい成長期を送れなかったのではないか。
そう思いながら読進めると、無情にも最後に「破局」の意味が分かった。
もっとも印象に残った一節 ほとばしる感情が痛くかなしい。
赤頭巾ちゃん 気をつけて
●第61回芥川賞 1969年 庄司 薫
35冊目/113
昭和30年代の小説なんて古くてカビくさいに違いない。と、古本屋で購入したまま積読となっていた小説。ところが、ページをめくり始めると、面白くて仕方がない。50年以上時代が過ぎても、男の子の女の子への不純な気持ちと純粋なこころは変わらないのだ。
一人称で語られるカオルくんは生爪はがれのケガをし、幼馴染のガールフレンドとのテニスの約束を果たせないのを、どう伝えようか悶々とする。どうだっていいこと、ラチがあかないことをああでもないこうでもない、と悩むのは青春の特権。どうにかテニスコートでの痛い視線を切り抜けた先に、診療所では女医さん胸元が気になって気になって誘惑と妄想に脳内を支配されてしまう。自己嫌悪指数マックスの最悪状態で、”赤頭巾ちゃん”に出会うのだが、そこでカオルくんがとった行動が、いまどき言葉でいう”エモい”のだった。
古本屋さんと雑感
●大ギンガ書房
古本以外にもレコードやブリキのおもちゃ等、所狭しと置いてある。
単行本でしかも昭和30年代の芥川賞本を探し出してくださって、感謝。
読み終わったあと、
遠野遥さんの小説について感情がなく内容に乏しいという意見を読んだが私はそう思わなかった。主人公が心の奥底にたたえているかなしみを、感じた。
庄司薫さんの”赤頭巾ちゃん”はサリンジャーに酷似している、という人たちがいたそうだが、そんなんどうでもええやん。不器用なカオルくんは、村上春樹初期作品の主人公にも似て、私は好きだ。
ちゃちゃばかりいれる、ココロのせまいひと、器のちっちゃいひとにはなりたくないわ。
※8月に下書きしていたnoteに加筆して公開しました
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