ペンギン・ハイウェイとハマモトさんのあれこれ2

　前回の続きです。
　今回は少し余談になるかもしれません。ちょっとした性に関する記述もあるので苦手な方はご注意ください。

蛙化現象とハマモトさん

　蛙化現象とは、意中の相手と結ばれた途端に、生理的に受け入れられなくなる現象のようです。SNSで話題になっていたので、知っている方も多いかもしれません。

　蛙化現象は『カエルの王様』になぞらえてつけられた名前ですが、『美女と野獣』に通じるところがあるように感じます。女性―――特に思春期の女の子にとって、男性はカエルや野獣に見えることがあるようです。ベルのように知恵と勇気をもって魔法を解く場合もあれば、『カエルの王様』の姫ように当たり散らして魔法が解ける場合もあります(これはカエルがめげずにアプローチした結果とも言えるかもしれませんが…)。

　蛙化現象の原因は様々あるようですが、一つは思春期になるとハマモトさんのように幻想を見抜く力が強くなることではないかと思われます。思春期の女の子にとって、男の子が抱く幻想が非常に恐ろしく感じるものなのではないでしょうか。

　アオヤマくんとハマモトさんが口論したときに、お姉さんのおっぱい論争をしていました。あのときハマモトさんは「おっぱいが大きい女が好みなんでしょ！どうせわたしにはおっぱいがないわよ！」と言いたかったのだと思います。アオヤマくんが1日30分も(お姉さんの)おっぱいについて考えているときちんと見抜いて、その上でそんなアオヤマくんに憤りや空恐ろしさを感じていたのではないでしょうか。

　大人になった今だからこそ、アオヤマくんがおっぱいについて語ってもクスッと笑えますが、もし私が思春期入りたての小学生で、憧れの同級生が1日に30分おっぱいについて考えていることを知ったら、「なんだコイツこわー…」と一気に苦手になったかもしれません。
(ただアオヤマくんにとっておっぱいは単なる性的興味の対象ではなかったと思います。アオヤマくんにとっては、「なぜお姉さんはお姉さんなのだろう？」と考えるための手がかりの1つだったのでしょう。どんなに賢くても「この世」の女の子のハマモトさんには、それがよくわからなかったのです。)

　夏祭りのシーンでハマモトさんは、“アオヤマくんとの秘密の研究＝「この世」の関係”には入りこまないようにとお姉さんを牽制していました。原作の夏祭りではハマモトさんはアオヤマくんに「<海>の研究忘れないでね」と言い、これはアオヤマくん自身に”「この世」の関係に幻想を持ち込まないでね”と念を押しているようでもありした。アオヤマくんが苦手にならないためには、お姉さんに撤退してもらわねばならなかったのだと思います。

　しかしアオヤマくんはお姉さんをかばったり、研究に引き入れようとしたりするものだから、ハマモトさんは怒ってしまったのではないでしょうか。

　ただ、ハマモトさんは『美女と野獣』のベル並みに賢く勇気のある女の子です。アオヤマくんが恐ろしく見えようとも決して逃げることなく、向き合う努力をしています。それがお姉さんのおっぱい論争という形で現れたのだと思います。

　思春期の女の子の中には相手と向き合えず、突然相手を無視したり、一方的に連絡を絶ったりする子もいるようです。『カエルの王様』の姫もカエルを無視したり拒絶したりしていましたが、姫がカエルとの付き合い方に葛藤している様子は、まさに思春期の女の子が男の子の幻想とどう向き合うべきかという様子を表しているようです。

　ただカエルのアプローチの仕方が現代も有効なのかは疑問です。ディズニーの『美女と野獣』が受け入れられていると言うことは、野獣がベルを一度解放したように、ぐいぐい行くよりも距離感が大切ということなのでしょうか。