「夜行」ー異界という視点ー4
第四夜 天竜峡田辺について
大橋が田辺と出会ったとき、彼はすでに学生を卒業していた。その割に定職についている様子はなく、友人と立ち上げた劇団とアルバイトで生計を立てていたようだ。お世辞にも安定した生活とは言い難く、さらに「劇団の内紛やら借金やら両親の不和やら」が重なり、暗澹たる日々を過ごしていた。
しかし、「外見は豪快そうだが繊細なところもある」田辺には、そのような辛い現実を自ら乗り換えられるほどの力はなかったのだろう。暗澹たる日々は田辺の心を蝕み、彼は眠れぬ夜を過ごす