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東京BABYLONと東京タワー

若かりし頃にいくつか漫画を読んでいたが、その中でも漫画集団「CLAMP」の本が私は好きだった。

彼女たちの作品を読むきっかけは、当時なかよしで連載が始まった「魔法戦士レイアース」であった。
見開きで描かれた細やかで美麗なイラストに、私は今までの作家陣とは一味違う雰囲気を感じて、幼心にどきどきとしながらページをめくった。ストーリーもRPG風仕立てで、内容も完全な勧善懲悪ではなく、それぞれのキャラクターが背負ったものがあるところに私はずぶずぶと沼にはまるようにのめり込んでいった。

他にも「X」「CLAMP学園探偵団」「20面相におねがい!!」「CLOVER」「Wish」などを読み、新しいものだと「×××HOLiC」なども娘と一緒に楽しませてもらっている。

その中でもCLAMPの作品を
もし一冊あげるとするならば

私は「東京BABYLON」を選びたい。

「あなたは『東京』がきらいですか?」

のセリフから

「今も昔も一番こわいのは人間ですから」

と、あるキャラクターのアンサーで始まるこの物語。

「東京BABYLON」は1990年から1993年にかけて月刊ウイングスで掲載され、その後コミックスになった。

この東京BABYLONを、不意に思い出した。

なぜかというと、私は最近東京タワーにのぼったからだ。

そう...CLAMPの作品群においてはかなりの高確率で「東京タワー」が作中に出てくる。

魔法戦士レイアースも、主人公たちの光と海と風が東京タワーを修学旅行で訪れたタイミングで異世界への扉が開く。

東京BABYLON第一話は、東京タワーの一部だけが揺れるという怪奇現象を解決してほしいという政府からの要請が、陰陽師の皇昴流すめらぎすばるという主人公に来るところから始まる。

昴流に恋心を抱いているという相手として、昴流と同業者ではないかと疑惑が持たれている桜塚星史郎という人物が出てくる。

彼はある「賭け」をしていて...その賭けの内容が、物語の後半であきらかになっていく。

昴流と星史郎の間には、桜の思い出が重要なポイントとなってくる。

「桜の木の下には死体が埋まっている」

幼い昴流と交わした約束。

その賭けがどうなるか...昴流の双子の姉、北都も不思議な力を持っていて、ある予感を感じ取っているのだが、しかし彼女はその運命の歯車をとめることができない。

そっくり双子姉弟

彼女は昴流が星史郎と近づくことで、昴流が壊れてしまう可能性を感じながら、それでもなお、昴流が星史郎に「恋心」を抱くことを望む。

私は北都がなぜ、このことを予感していながら止めなかったのか...当時は疑問を抱いていた。

大好きな弟が苦しむ未来を知りながら

自分が最後に身代わりになることを感じながら

でも

今ならわかる気がする。

今の私にはわかるのだ。

彼女はそれでも昴流に「人を好きになること」
「誰か特別な人を想うこと」を知って欲しかった。


彼女は、自己犠牲ばかりの生き方をしている弟に、おそらく人間らしいエゴを抱いて生きて欲しかったのだろう。


まわりから見て望ましい選択肢を
いつも選べるほど
人は器用ではない。

ただしく生きること。

それができる人間ばかりでもない。

でも何が自分にとって1番大事で

どんな感情を得ていきたいのかは


きっとそれぞれが
自分自身で時に苦しみながら
答えを出していくことなのだろうと
思う。


東京タワーを見ると思い出す。


あのまばゆい光と

たくさんの人が生きているこの世界と

今はもう失われて

けれども永遠になった気持ちのカケラたちを。

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