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エンジニアのための意思決定力を鍛える(初心者CTO編)
CTOとしての役割を初めて任されると、技術リーダーだった頃とは違う重みのある意思決定を迫られる場面が急激に増えます。
しかも、CTOの意思決定は技術だけでなく、経営やチーム全体の流れを左右するものが多く、その重さに悩むことも多いでしょう。
僕自身、初心者CTOだった頃は「これでいいのだろうか」「もっと良い方法があったのではないか」と悩む日々が続きました。相談したい気持ちがあっても、「相談すると不安に思われてしまうのではないか」と抱え込むこともありました。孤独を感じながら進むことは、CTOにとって避けられない道かもしれません。
でも、この壁を乗り越えることで、「技術と経営の架け橋」として、より大きな成長が待っています。また、この種の孤独感や葛藤は、初心者だけでなく、経験を重ねても付きまとうものです。永遠の課題なのかもしれません。この件については、いつか別の記事で深掘りしてみたいと思います。
この記事では、初心者CTOが意思決定力を鍛え、孤独感を乗り越えるための視点をお届けします。
CTOの意思決定に必要な攻めと守り
経営にとっての矛であり、チームを守る盾でもある
初心者CTOがまず理解すべきは、「CTOは経営にとっての矛であり、チームを守る盾である」ということです。
経営陣にとってCTOは、競争を勝ち抜くための攻撃的な戦略を担う存在です。技術の力を武器に、競合に差をつけ、事業を前進させる推進力となります。一方で、チームにとっては外部のプレッシャーや不安定要素から守る防御役でもあります。
例えば、新しい技術の導入を決定する場面を考えてみてください。経営陣には、その技術がどのように事業を加速させるのか、数字や具体的な成果で説得する必要があります。一方で、チームに対しては、学習コストやリスクを最小化する環境を整え、安心して取り組める状況を作ることが求められます。このように、CTOは常に「攻撃」と「防御」の両面を考慮しながら意思決定を行うのです。
最適解ではなく、最善解を探す
意思決定とは、「理想の正解」を探す作業ではありません。むしろ、その時点での「最善」を見つけるプロセスです。特に、初心者CTOは「完全な正解」を求めて動けなくなることが多いですが、完璧である必要はありません。
正解を求めるのではなく、「現状のリスクを最小化しつつ、次の一歩を踏み出せる選択」を心がけることが重要です。それが、CTOとしての成長につながる意思決定力の土台となります。
初心者CTOが直面する意思決定
技術選定におけるジレンマ
新しい技術を導入するか、既存の技術を活用するか――これは初心者CTOが最初に直面しやすい悩みの一つです。例えば、技術トレンドに追従したい気持ちと、既存の技術で進める安定性のどちらを優先すべきかで葛藤することがあります。
実際の場面
あるプロジェクトで、新しいフレームワークの導入を提案した際、チーム内からは「学習コストが高すぎる」「既存の技術でも十分間に合う」という懸念が挙がりました。一方で、経営陣は「今後の競争優位性を高めるために新技術が必要だ」と考えていました。
ポイント
チームと経営陣の両方の意見を慎重に聞き、それぞれのメリット・リスクを具体的に整理します。
現場での実装がスムーズに進むよう、導入のサポート計画を同時に提案します。
「今選ぶ技術が、数年後のチームにどう影響を与えるのか?」という視点を持つことが、CTOとしての重要な意思決定力を支えます。
チームの人員配置と優先順位
初心者CTOは限られたリソースの中で、どのプロジェクトに人員を割り当て、どのタスクを優先すべきかという問題に直面します。特に、短期的な成果と長期的なチームの健康状態を両立させる判断が求められます。
実際の場面
短期的な売上貢献が見込まれるプロジェクトと、長期的な技術基盤を整えるプロジェクトが競合する状況がありました。僕は、どちらか一方を完全に優先するのではなく、リソースを適切に分配し、双方の最低限の成果を保証する形を選びました。
ポイント
短期と長期のバランス: リソースをすべて短期の成果に振り向けると、将来の基盤が脆弱になります。一方で、長期プロジェクトばかりに注力すると、事業に即した貢献が遅れます。
スキルの活用: メンバーの得意分野やモチベーションを見極め、適切なプロジェクトに配置することで、負担を分散しつつ成果を最大化します。
スケジュール管理とリスクのトレードオフ
リリース日を守るために、どこで妥協し、何を優先するか――これはCTOにとって永遠の課題です。
実際の場面
僕が直面したあるプロジェクトでは、チームが新機能のリリースを急ぐ一方で、既存のシステムの安定性確保も求められていました。納期を守るために、ある程度の品質妥協を認める判断を下したものの、これをチームと共有し、次の段階での改善計画を同時に立てることで、最終的にプロジェクト全体を成功に導くことができました。
ポイント
「妥協する部分」と「絶対に守るべき部分」を明確に分ける。
チームとオープンに議論し、納得感のある妥協案を作ることで、チーム全体の士気を保つ。
僕の経験談
CTOとして働いていた頃、プロダクトの方向性を巡る意思決定に悩んだ経験があります。
経営陣からは「スケジュールを最優先にして、早くリリースしてほしい」との要望がありました。一方で、開発チームは「新しい技術を導入して、しっかりとした基盤を作りたい」と強く主張していました。
どちらの意見も一理あります。しかし、このままではチーム内に軋轢が生まれ、プロジェクトが停滞する可能性が高いと感じました。そこで僕は、「単なる妥協ではなく、どちらの要望にも応える最適解を探す」ことを決めました。
まず、全体像を整理するために、経営陣と開発チームそれぞれの優先事項を具体的に洗い出しました。経営陣には、「新しい技術を使ったからといって、必ずしもスケジュールが遅くなるとは限らない」という点を説明しました。そして、エンジニアたちとは、新しい技術がもたらすメリットやリスクを一緒に分析し、導入によって開発スピードを向上させる方法を模索しました。
このプロセスを通じて僕が気づいたのは、「意思決定は一瞬の判断で終わるものではなく、その判断を支える地盤を固めていく作業そのものだ」ということです。例えば、開発チームのこだわりが単なる趣味的なものに終わらないよう、ビジネス的な優先事項をしっかりと共有し納得してもらうことも、地盤を固めるための重要なステップです。
その結果、技術選定においては経営陣の要望を意識しつつ、開発チームの提案を取り入れる形で、スピーディーかつ柔軟なアプローチが可能な技術を選ぶことができました。最終的に、このプロジェクトでは経営陣と開発チームの双方が満足する形でリリースを実現できました。
CTOとして、「どちらかの意見を妥協させる」のではなく、「両者の要望を取り入れた最適解を探し続ける」ことの大切さを強く実感した出来事です。そしてその裏側には、意思決定の地盤を固めるための丁寧な対話とプロセスがあったことを今でも鮮明に覚えています。
まとめ
初心者CTOにとって、意思決定は避けて通れない課題です。経営陣からの要望と開発チームのこだわりの間で悩むことも多く、孤独を感じながらその重責を担う場面もあるでしょう。
しかし、意思決定は一瞬の判断ではなく、その判断を支える「地盤」を固めるプロセスそのものです。経営陣の視点とチームの視点を丁寧に整理し、両者の間を繋ぐ最適解を探し続けることで、技術とビジネスの橋渡し役としての力を磨いていくことができます。
また、意思決定には「攻め」と「守り」のバランスが求められます。CTOは経営にとっての矛であり、チームを守る盾でもあります。そのバランスを取るためには、自分一人で抱え込むのではなく、チームや経営陣と丁寧に対話を重ね、透明性のあるプロセスを築くことが欠かせません。
意思決定には苦しみが伴いますが、その過程で「CTOとしての成長の種」が育まれます。一歩ずつ進む中で、「最適解を探し続ける」というプロセスを楽しんでください。そして、その経験があなたのチームやプロジェクトを前進させる大きな力になることを信じてください。