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【140字小説】今日から始められるんだよ、と魔女が言ったから僕は小説を書いてみた。

プロローグ

今日から始められるんだよ、と魔女が言ったから僕は小説を書いてみた。140字でいいんだし、なにを書いてもよいのだから、怖くなかった。向日葵に囲まれていた君のこと、香取神社であつめた銀杏のこと、いつか見た夢のこと、過去も未来も書いてみた。十六ページ。宇宙の片隅に、そっと置いてみよう。

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子供の頃、夏祭りは祖母の家に集まるのが決まりだった。山車をひいて町を一周すると、お菓子がもらえる。法被を着て鉢巻きをつけると、祖母は仏壇から白粉を取りだして、僕の鼻筋にひいてくれた。毎年、狐の面をかぶった友達が迎えに来てくれた。その子は素顔を見せてくれなかったし、名前も知らない。

Page 02

この川は血で真っ赤に染まった。この公園で山のような遺体を燃やした。この校庭には見てはいけないものが埋まっている。祖母は一緒に散歩をすると、いつも怖い話で、僕を怖がらせようと、からかっていた。神社で拾い集めた銀杏をもっていくと、とても喜んでくれた。嘘をつけない、大正時代の人だった。

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