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美しさと正しさは別のもの

初めて葉山に行った。

「葉山」という魅力的な響きが
遠くに感じていたけれど、
行ってみたいのなら行ける距離だと気づき、
ふらりと訪れた。

逗子駅からバスに乗って、
神奈川県立近代美術館をめざしていた。
けれど、森戸神社というバス停で、
降りたくなって降りた。

目の前に、「三角屋根 パンとコーヒー」というかわいいお店があったので入って、
ビスケットとキャロットケーキを買った。
スコーン好きの私は、
このビスケットを見た瞬間、
私好みのスコーンの予感がしていた。
私が入ったときは1人だけお客さんがレジにいたのが、私が買ったあとは、4人ぐらい並んでいた。
人気店らしい。

神聖な森戸神社を参拝した。
海の風がすべてを浄化してくれる気がした。

岬にある神社の奥は、
海岸におりられるようになっていた。

海に入りたかったけれど、
寒かったのでやめた。
海に向かって岩に座り、
ビスケットを食べたら、
やっぱり私好みの味がして幸せだった。

雨雲のすきまから、
太陽が見えて、日がさした。

当初の予定の神奈川県立近代美術館をめざし
15分ぐらい歩いた。
県立美術館のお向かいに見つけた
山口蓬春美術館の看板に心惹かれた。

庭園があるという。
行ってみた。
日本画家の山口蓬春邸が、
美術館になっているらしい。

日本の邸宅に作品が展示されている。
私がこれまで見た中で最大と思うミモザの立派な木が見える
画室も公開されていた。
吉田五十八設計。

山口蓬春について、
ほとんど知らなかったけれど、
紹介の映像を見て、彼の生涯を知った。
東京美術学校を首席で卒業したらしい。
しかも、最初は油絵を描いていたという。
先生に日本画の才能を指摘され、日本画に転向した。

私が心動かされたのは、
1点の絵だった。

香港島最後の総攻撃図

美しいと思った。
夜の闇に、金色に輝く炎がとても美しかった。
でも、その美しい炎は、戦争による火災の火だ。
正しさと美しさは別物なんだなと体感した。
その瞬間、なぜか涙が流れた。

美しいものは、善悪関係がない。
私たちは何に美しさを感じるのだろうか。
盗まれた花であっても、美しさに変わりはなく、
花は花。
ただ、その花が
ただ道端で咲いているのか、
愛しい人からもらった花なのか、
家族が大切に育てている花なのか、
私たちはその花のストーリーによって
感情が変わる。

そこに込められた意味を大切にする。

そこで思い出すのが、山吹の花だ。
私の大好きなエピソードがある。
江戸城を築いた太田道灌が若いころ、
鷹狩に行く途中
雨に打たれて困ってしまった。
見ると、貧しそうな家があったので、
蓑を貸してほしいと頼んだ。
戸が開いて、美しい少女が出た。
中に戻ると、差し出した。
それは、蓑ではなく、山吹の花だった。

山吹の花を差し出したのは
どういう意味かというと、
『後拾遺集』にある兼明親王の歌
「七重八重花は咲けども
山吹の実のひとつだに無きぞ悲しき」
この歌をふまえて、
「蓑」と「実の」を掛けて、
残念ながら蓑はありません
山吹を使って伝えた。

なんという粋な伝え方だろうか。
山吹の花は、花であり、
その奥には人の思いがのせられている。

人は意味を知りたい生きもので、
意味がないと生きていけない。

美しいものは美しいだけで価値があるけれど、
そこに意味をさらにこめることで、
人はそのものの価値を高めることができる。

美しい花に、私はどんな思いをのせようか。
私の人生を、私はどんな思いで生きようか。





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