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別れることが唯一の愛

添い遂げようと思った。
結婚とはそういうものだ。
いいところも悪いところも
すべてひっくるめて、
一緒になるのが結婚で、
一緒に生きていく覚悟がなければ
結婚なんてしない。

誰にでも、長所も短所もある。
相手をすべて受け容れられなければ
結婚なんてできない。

だから、どんなことがあっても
別れようとは思っていなかった。

どんなひどいことをされても、
たとえ、家に帰るのがこわくても、
びくびくしながら暮らしていても、
離婚を考えていなかった。

でも、どんなに我慢しても、
夫が気に入るようにしようとしても、
全然状況はよくならなかった。

結婚して10年以上経ったころ、
離婚を周りから勧められた。

私が渋っている様子をみて、
叱られた。

「誰が旦那さんをこんなふうにしたと思っているの?」

え? 
私のせい?

青天の霹靂だった。

私は彼を助けて支えていると思ったいたのは、
彼の能力を削いでダメにしていたというのだ。

私がいなければ、彼は必至で生きていく道を
見つけようとしただろう。
私は彼が何もしなくても生きていけるように
してしまったのだ。

人は楽なほうに流れていく。
楽な道があれば、
必死になることはない。

結婚を続けることは、
彼にとってよくないことだった。
離婚することは、
彼にとっていいことなのだと気づいて、
離婚を決意した。

私が離婚を考えなかったのは、
ひとりになるのがこわかったから。
私と結婚してくれる人は
この人しかいないと思っていた。

完全な共依存だった。

ひとりになってもいいと覚悟した。
自分を大事にするために。

私にとっても、
彼にとっても、
離婚が最善の道だとやっと思えた。

昔、夫とテレビを見ていて、
女性芸能人が二十歳になるかならないかの頃、
年上の彼と地方で同棲をしていて、
東京に行って仕事したいという夢を話したら、
怒られたというシーンがあった。
彼は彼女と一緒に結婚して暮らしたいから、
東京に行ってほしくないと言った。
「ひどい」
と私がつい漏らした。
自分のエゴで彼女の夢を閉ざしてしまうなんて。
本当に相手のことが好きなら、
行かせるでしょうと思ったから。
そしたら、夫に激高された。
意味がわからなかったけれど、
夫も彼に賛成だということだろう。


先日、大愚和尚の人生相談の動画で、
わかりやすい回答があった。

ダンマパダという
お釈迦さまの教えを記した経典があり、
愚かな人という章がある。

旅に出て、もしも自分よりもすぐれた者か、
または自分にひとしい人と出会わなかったら、
むしろきっぱりと独りで行け。
愚かな者を道連れにしてはならぬ。

『ブッダの真理のことば・感興のことば』 中村元訳

旅とは人生のこと。

物を捨てられず異常なほど溜め込む妻と
なんとか結婚を続けていこうとしたことに
誤りがあって、それが相談者の問題だという。

あきらかに心の病気の妻と一緒に暮らすことは
相談者とその子の人生を狂わせている。
病気は感染していく。
感染している人と一緒に同じ屋根の下で
暮らしてはいけない。
正しい判断ではない。

努力して何とかなるものと
努力しても何ともならないものがある。

愚かな人とは
自分の心と言葉と行いを客観的に
観察することができない人のことをいう。

愚かな人とは、決別しないといけない。

自分自身の人生の幸せを尊重してくれない人と、
一緒に生きていくことは、自分を殺すことになる。

結婚したからといって、
一緒にいつづけることは、
優しさでもなんでもない。
愛ではなく悪だ。

一家全滅の道を突き進んでいる。

人と別れることは、
痛みをともなうかもしれないが、
自分と相手のために
別れることが唯一の愛
ということが少なからずある。

私が離婚したことは、
夫にできる唯一の愛のかたちだった
と思っている。

いろいろあったけれど
私と結婚してくれたことを
心から感謝している。





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