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夏とか煩いから静かにしてくれ

夕立ちが降った。
慌てて傘を出す人や、
凌げる場所に走り出す人たちを横目に、
なんかもういいやって空を仰ぐ。
何処かで雷が鳴る。
雨粒に汗が混じって少しだけしょっぱい。
体温が奪われていく感覚が気持ち良くて、
どうせ自分に跳ね返ってくる苛立ちとか、
金輪際僕が出てくることのないあなたの今後とか、
全部、ぜんぶ気化すればいいのにとか思って、
こんな時用のプレイリストなんかが
存在していること自体が可笑しくなってきて、
もうこの世にいない人間の音楽を聴いている。
すべての雨が海に帰る訳では無い。
それを希望だって言ってしまえるのなら、
それこそが僕にとって何よりの絶望だった。
それこそが、僕から見える世界だった。
そして世界というのは、
世界かあなたかの択を迫られた時に、
あなたを選ばなかった未来だった。
赤信号を無視して横断歩道を渡る。
全然、平気な気がしてくる。
掠れていく痛みとか悲しみ、
根拠のない死にたさ、空虚感、
当たったことがない自販機のルーレット、
割れて砕けたネイルチップ、
政見放送に群がるアンチ発言、
人の生き死にが無意味に取り沙汰されるSNS、
満、から空、になる立体駐車場、
枕木をつたって歩いた深夜のローカル線、
いずれこの黒もセピアになっていく、
だから平気な気がしてくる(本当に?)(ダウト)
本当になるまで僕は死んでなんかやらない。

祈りはか細くとも無意味ではないと信じたい。
あなたのこれからが素晴らしき日々であらんことを
結構まじでちゃんと祈っています。
でも同時に僕より不幸じゃないと許せない、
とも思っています。
こんな気持ち両立しちゃダメか、とか
反省したふりだけしてくしゃくしゃの煙草を吸う。
あなたの息災をどれだけ願おうとも、
伝える手段があるはずもない惨めさすら、
歌詞にならないまま生活に溶け込んで、
濁らせるだけだ、思考を。
曇らせるだけだ、視界を。
どんなに擦っても拭えないから、
それが気持ち悪くて掻き毟っていたら、
当たり前に赤く腫れてしまった。
救いたかったんじゃなくて、
本音は巣食いたかったんだと思う。
それはお互いね。
だから背中に彫る図柄はそれに決めた。
僕が背負うとするなら、それしかないと思った。
ふと、考えるんだ。
感傷に耽る時、出来事自体には何の未練もなくて、
あの時あの場所に置き去りにした、
自分の精神の一部を取り戻したいだけなんじゃって。
そしたら必死になるのも馬鹿らしくなってきて、
涙も流れなくなった。
流れなくなったら、
切なさは切なさのまま僕の中に停留した。

オイルが切れかけのビックライター、
探せば家中から出てくるのに新しく買い直す。
また伸ばしたくなるのに鬱陶しいから髪を切る。
失うのは怖いのに孤独はもっと怖い。
不毛な戦いは続くよ、ずっとね。
船出の汽笛が聞こえる街、
昔は鯨の鳴き声かと思ってワクワクしてたっけ。
幼いながらにうちは普通じゃないって悟った時、
実はそんなにがっかりはしてなくて、
心底がっかりしたのは、
僕なんかよりはるかに劣悪な環境の中で、
懸命に生きている人たちがごまんといると知った時。
そんな浅ましさを自覚してしまった時。
僕は、真面にはなれっこないと思った。
なれたとしてそれはそれで、
僕はちゃんと笑えているのかなって今は思う。
欠伸を一つ、咳払い二つ、ため息は三つ。
もう終わった人生を淡々と推敲していくように、
退屈な毎日をこなす。
朝は起きれないし、夜は眠れないし、
記憶にもないいつぞやの請求で金が減る。
神は細部に宿るとかファッキンシットだぜ全く。
風が強いしどうせこの雨ももうすぐ止む。

最善を装った偶然がいくつも通過する。
見逃したのを悔いているうちにまた次が過ぎる。
ちょっと待ってくれよっていつも焦っている。
から、紛らわすみたいにイヤフォンをつける。
ノイズを更なるノイズで掻き消すみたいに。
幸せが何かも分からないのに、
幸せになりたいって漠然と思う。
例えば当たり前のことが当たり前にできて、
何があっても帰る場所がある安心感があって、
素の自分のままで幸も不幸も感じることができたら、
それって多分幸せなんだろうって思う。
だけど僕は友達に簡単に騙されたりするし、
なんとかなるって重大な決断を間違えちゃうし、
どうしても動けない日とかそれなりにあるし、
生存競争じゃ淘汰される側の人間だろうと思う。
それでも守りたいものとかあるし、
成し遂げたいなって思うものもあるし、
素でいられずとも足掻くしかない。
僕が僕として生まれてしまったばっかりに、
生きるのはこんなにも面倒くさいけど、
過去の自分の鬱陶しいくらいの筆力に、
励まされたりする日も確かにある。
だから今の虚しさがいつかの自分を照らすって、
飲み込むしかないんだよ。
踏み越えていくしかないんだよ。
残機はいつも一つしかない。
そんな緊張感の中を千鳥足でいく。
抵抗でも、決別でもない一歩でありたい。
発作的な回想に悶える夜を指折り数えて、
それでも変わらない原型をちゃんと捉えて。

気がつくともう雨足が弱まっていた。


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