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或る部屋
これは数年前、知人のKから聞いた話である。
Kの実家は京都の中央区にある二条駅から歩いて10分程度行った所にあるらしく、軽く築100年は越えているそうだ。昔ならではの瓦屋根に木で出来た門戸、色褪せた塗り漆喰の壁が古き良き時代を感じさせる。
そんなKの実家の2階には、半ば開かずの間と化した8畳程の部屋があると言う。そこには掛け軸があり、どの角度から見ても描かれている女と目が合ったり、誰もいないのに足音がしたり、急に耐えられない程の頭痛がしたりと、とにかく半日足りともそこには居られないのだそう。自殺があったり実は座敷牢だったとかそういった事は一切無かったらしく、何も無いからこそ不気味であり、より恐怖を掻き立てられた。
そうこうしている内に誰も使わなくなり、物置部屋として使用されていたのだと言う。
ある時、Kが小学校に上がる前だったか後だったか、Kの叔母が九州から仕事の関係で京都に訪れ、1晩泊めて欲しいと言ってきた。
勿論泊める事自体はやぶさかではないが、Kの母は如何せん部屋が空いていないとやんわり断ったそうだ。
しかしその叔母は物置部屋でも良いし、とにかくお金を掛けたくないのだと言って聞かない。何だったら廊下でも良いと言う。流石にそれはという事で、件の部屋を教えてしまった。
「何言ってるの。そんなものある訳ないじゃない。心配して損したわ」
と、鼻で笑い飛ばし床についた。
Kの実家は正面玄関から見て、左側に長い造りになっている。入ってすぐ一畳半程の土間で、一段上がって短い廊下があり、その突き当たり右手にドアがある。そこがKさんの部屋である。
廊下に突き当たって今度は左を向くと、更に一段上がって六畳、四畳、八畳の襖で仕切る事の出来る部屋が続く。六畳間の左側には出窓のある二畳の談話室があり、一番奥に位置する八畳間を客間として使用している為、手前二つの部屋に物は置かれていない。
この三部屋の隣にも同じサイズの部屋が連なり、ぐるっと一周出来る造りになっている。となると、Kの部屋と談話室がロの字からひょこっと突き出ているのかと言うとそうではない。
廊下の突き当たりの壁を挟んだ反対側には、十畳の炊事場兼食卓の部屋があり、談話室を始点にL字の内縁が左奥の八畳間まで続く。ちなみに内縁の終点にはトイレがある。プライベートもへったくれも無い家の中で唯一、襖ではなくきちんとした壁に囲まれた部屋がKさんの部屋なのである。
祖父母はトイレが近いからと左奥の八畳間、両親は二階の一番奥のこれまた八畳間。
件の部屋へ行く階段はどこかと言うと、廊下の突き当たりの壁と炊事場の間埋めるようにして、Kの部屋に向かって登る形で作られている。登りきって振り返ると右手が廊下、左手に同じサイズの部屋が二つ。 奥が両親の部屋で手前が例の開かずの間である。
K以外の全員が寝静まり、向かいの居酒屋から笑い声が消え、まだ梅雨のカビ臭さの残る風が小窓を揺らすそんな夜更けの出来事だった。
何かがいる、と感じたのはKがそろそろ眠りにつこうと電気を消してすぐだった。
風が窓をカタカタと揺らす音に混じり小さく
ぎぃっ
と、軋む音が聞こえた。
Kの家は前述の通り歴史ある建物であり、誰かが通らずとも軋む事もあれば、家鳴りがする事も多々ある。だが、Kはそうとは思えなかった。霊感や特別な何かを持っている訳では無い。家の誰かが炊事場へと向かっている可能性もある。
が、そうではないとKは確信した。
何故今日に限ってかは後で考えるとして、それを証明するかの様に再度
ぎいっ
と、初めよりもより大きい音が鳴った。
ああ、間違いない・・・・・・何かがいる。そしてそいつは二階へと向かっている。音が鳴り出した方向へ向き直り、生唾を飲み込む。
ぎぃっ
ゆっくりと、しかし確実に階段を登るそれ。
Kはそいつの正体を確かめるべく、音を立てぬようドアを開けた。
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