幸運【不思議な話】
私は運が良い。いや、運が良いなんて表現で済むレベルでは無いと思う。くじを引けば必ずと言って良い程一等を当てる。この間も商店街のガラガラで特賞の冷蔵庫を貰ってしまった。晴れろと思えば晴れて、土砂降りになれと思えば前が見えないくらいの大雨になる。大きな怪我や病気は一度も無いし、一度車8台が絡む大事故に遭遇した事もあったけれど、全くの無傷だった。
例えば、サイコロを100回振って100回とも1が出る確率は途轍もなく低いけれども、0ではない。多分、そんな限りなく細い糸が偶然切れずに続いている。
そんな風に考えていた。
ある日、酒の甘ったるい匂いを漂わせながら、中年のおやじがしつこくナンパしてきた。あまりにしつこいのできつめに断ると、今度は罵倒を浴びせ始めた。
かなり温厚な方だと自負しているが、今回ばかりは流石に許せず声を荒げてしまった。
「あの!」
私が大声を出すと思っていなかったのか、そのおやじは一、二歩と後退り、背後から歩いてきたサラリーマンに押しのけられ、花壇の段差に足を取られて車道に転げ出てしまった。
そして、あっと言う間も無く、丁度通りかかった4トントラックに引きづられていった。
この日を境に「幸運」の持つ意味が変わった。