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赤ちゃんは、意味より先に「宛先」を知る
たった1人の人物に向けて書くことで、
たった1人を想って作ることで、
それが結果的に多くの人の胸を打ったりする。
ってよく聞きませんか。
あれって一体なんでなんでしょう?
なんとなくはわかっていたんですけど、あの現象について、明快な説明が今までできなかった。
でも、最近読んだ本のおかげで解決したんです。カタルシスを味わいました。
<赤ちゃんは、意味より先に「宛先」を知る>
その本というのは、フランス現代思想が専門の内田樹先生が書いた『街場の文体論』です。大学での講義を文字起こししたものらしく、おかげで語り口調っぽくてわかりやすい。
この講座、クリエイティブライティングがテーマなのですが、とにかく話の広がりがすごい。脳が知的な刺激でドクドクします。
それはさておき、問題の件について。
なぜ、たった1人に向けた、宛先をはっきりさせた創作が人の胸を打つのか。
これって、理屈はわからずとも、体感的にそうだってことはみなさんもわかっていると思います。
しかも、いつからわかっていたかというと、僕もみなさんも、たぶんお腹の中にいるときからわかっています。
と、内田先生はおっしゃっている。
赤ちゃんは自分の鼓膜や皮膚に触れてくる空気の波動から、母親からの語りかけを聴き取ります。もちろん、その波動が何を意味するかはわからない。(中略)でも、(中略)それが「自分宛てのメッセージ」だということはわかるようになる。
赤ちゃんは、耳が聞こえるようになったとき、あるいは触覚をもったとき、言葉がまだわかっていません。それどころか、人の口から出る音とそれ以外の音をわける価値や意味さえ、たぶんわからない。
じゃあ、どうやって言葉を獲得していくのか。
それは、メッセージの意味を理解する前に、つまり「記号」よりさきにまず「宛て先」というものを感じとることによってだというのです。
どうやら、自分に向いて発せられている波動と、そうじゃないものがあるぞと感じられる力がある。それを起点に、そこだけに的を絞って、じゃあ何を言いたいんだろうという必死の理解がはじまる。
だから、
<宛先は死活的に重要な情報>
宛先は死活的に重要な情報、なのです。
それが自分宛てのメッセージだということがわかれば、たとえそれがどれほど文脈不明でも意味不明でも、人間は全身を耳にして傾聴する。傾聴しなければならない。もしそれが理解できないものであれば、理解できるまで自分自身の理解枠組みそのものを変化させなければならない。
それは人間のなかに深く内面化した人類学的命令なのです。
面白いですよね。
さらに言えば、人は誤解や誤読をします。
「ねぇねぇ」と町で呼びかけられたら、つい後ろを振り返ってしまう。でもその声の主は、実は別の人に話しかけていたなんてことがある。
これが、冒頭の答えじゃないでしょうか。
誰か1人に向けた言葉が人の胸を打つのは、この誤って届いてしまう現象が起こるからじゃないかってことです。
人間にとって、宛先の情報は何より大事。だから、誰かを明言せずに、でも明らかにたった1人に向けて話しかけているのを情報として拾うと、反応せずにはいられない。
いかがでしょう?
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