それってパクリじゃないですか?第2話
『それってパクリじゃないですか?』の第2話が放送されましたので、先週に引き続きこのnoteでも取り上げたいと思います。
今回は、月夜野ドリンクが「緑のお茶屋さん」という「お茶」を販売している中、落合製菓食品が「緑のおチアイさん」という抹茶味の「チョコレート」を販売していたことが明らかになりました。しかも、「緑のおチアイさん」は、商標登録までされているようです。
「お茶」「商標」「紛争」と聞くと、個人的には、まず最初に「はーいお茶」「お~いお茶」の事件を思い出します。この事件は、「お~いお茶」からなる登録商標を「茶、緑茶飲料」等について有している株式会社伊藤園が、「はーいお茶」という商標を「茶」について新規に取得した者に対して登録の取消しを求め、特許庁に対して異議の申立てを行ったという事件です。結果として、「はーいお茶」という商標登録は、商品の出所(要するに、販売元や製造元のことです。)において混同を生ずるおそれがあるとして(商標法第4条第1項第15号)、取り消しとなりました。もしご興味があれば、「異議2016-900235」でご検索ください。
さて、以下では、今回のお話で解説されていなかった商標法の基礎について解説をしていきたいと思います。
まず、商標は、必ず商品や役務(サービス)を指定して登録されます。そして、商標が登録されれば、商標権者は、その商標と同一の商標をその指定する商品(指定商品)と、同一の商品に使用することができます。
さらに、商標権者は、登録商標と同一または類似の商標を、その指定商品と同一または類似の商品に使用している第三者に対して差し止めを求めることができるようになっています。
今回は、月夜野ドリンクの商標が、どのような商標・指定商品(役務)で登録されているかは明らかになっていませんが、商標登録自体はされているのだと思います。そこで権利行使に必要な、「商品」の類似を見てみることにします。
商品(役務)が類似するかどうかは、生産部門、販売部門の共通性、材料、用途の同一性、その他の諸要素を考慮して判断されます。この点、出願の段階では特許庁が基準を設けており、その商品に振られた類似群コードが同一であれば、当該商品は類似する商品であると推定されるため参考になります(類似群コードは特許庁のデータベース「J-PlatpPat」内の「商品・役務名検索」で見ることができます。仮にお茶のみを指定していた場合、お茶には29A01の類似群コードが振られているのに対し、チョコレートには、30A01の類似群コードが振られているので、二つの商品は原則として非類似であると推定されることになります)。
本件で、月夜野ドリンクが「緑のお茶やさん」を「お茶」にしか商標登録をしていないとすると、「チョコレート」に対して権利行使はできないはずなので、お茶のみでなく、チョコレート(菓子)も指定した商標の登録もあると考えられ、その場合、月夜野ドリンクは、落合製菓に対して、商品の類似を主張できると考えられます。
次に、「商標」の類否が問題となります。商標が類似しているかどうかということですが、その判断の仕方は、外観(見た目)・称呼(読み方、発音)・観念(意味合い)を総合して全体的に観察し、取引の実情も考慮して、出所の混同が生じるかどうかが検討されます(各要素について、どういった場合に類似と判断されるかは、特許庁が審査基準を出しており、参考になります。)。
仮に、月夜野ドリンクの登録商標が標準文字だけで、「緑のお茶屋さん」として登録しており、これと落合製菓がパッケージとして使用していた「緑の/おチアイさん」の類否判断をした場合には、上記の外観、称呼、観念上、相違が明確なので、非類似とされる可能性もそれなりにあるように思われます。
一方で、実際のパッケージのような濃い緑色の背景に、中央に黄緑色の円形の図形を配置し、そこに一部重なるように白抜きで緑色で「緑の/お茶屋さん」と改行して記載された商標が登録されていれば、実際のパッケージに使用された「緑の/おチアイさん」と商標が類似すると判断される可能性は十分あると考えられます(上記の両商標の文字は、フォントや色使いも同じように見えますし、称呼の差も「チャヤ」と「チアイ」の相違にとどまる、ともいえます)。とはいえ、北脇も言っていたように、商標の類否は中々判断が難しいところであります。
なお、そもそも「緑のお茶屋さん」が商標登録される要件を備えているかも気になるところです。
商標法上、重要な概念として、「識別力」というものがあります。すなわち、商品の名称などは、それらが付されることにより、出所(販売元・製造元)がわかることが重要なので、その商標から出所を見分けられることができなければなりません。商標法では、以下のような識別力のない商標については登録することが原則としてできないとし、例外的に使用により識別力を獲得した場合に登録できるとしています。
例えば、「緑茶」という商品を「お茶」という名称で販売していても、どの事業者が販売している商品か見分けることはできません。同じく「緑のお茶」という商品名をつけても、緑茶は緑色をしているので、やはり特定の出所は識別できないかと思います。では、「緑のお茶屋さん」という名称ではどうでしょうか。ここまでいくと、お茶について、普通に用いられている名称でもなく、その品質を示すものでもないと考えられるため、登録の可能性が出てくるものと考えられます(ただし、特許庁からは品質誤認とならないよう、「茶」関係の商品役務に限定せよ、という拒絶理由が出される可能性はあるように思われます)。
その他、「緑のお茶屋さん」が「緑のおチアイさん」より先に商標登録されていたとして、「緑のおチアイさん」がどのような審査経過で登録となったかも若干気になるところです。(指定商品が非類似であるとしても)「緑のお茶屋さん」が広く知られている商品のようですので、上述の「はーいお茶」「お~いお茶」の事件で問題になった商標法第4条1項15号には該当した可能性があるようにも思われます。
また、冒頭で北脇は、不正競争防止法まで視野に入れれば、付け入る隙はあるかもしれないと言っていました。不正競争防止法では、色々な不正競争行為の差止請求権(第3条)、損害賠償請求権(第4条、民法第709条)が規定されており、その中には、需要者の間に広く認識されているな商品等表示を自己の商品等表示として使用して、当該他人の商品や営業と誤認混同を生じさせたり(第2条第1項第1号)、更に知名度が高いものについて、著名な商品等表示を自己の商品等表示として使用する行為があげられています(第2条第1項第2号)。
今回の設定からは明らかではありませんが、仮に「緑のお茶屋さん」が著名であって北脇が2号を主張していた場合はどうなるでしょうか。
2号の趣旨は、著名な標章へのタダ乗り(フリーライド)や、他人が使用することによる希釈化(誰の出所を示す表示かわからなくなっていってしまう)、汚染(使用のされ方や、類似の商品でも悪い品質の商品への使用などによって、著名な出所表示イメージが低下してしまう)を防止することにあります。このような主張は認められる可能性が高いと考えられ、落合製菓が使用を中止したことと整合する結論になるかと思います。
なお、この第2号に係る不正競争行為に基づく請求の場合、商標登録を持っていなくて良く、また、商品等表示(=人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの)まで保護範囲が拡大されており、かつ誤認混同が要件とならない点で非常に有用ではありますが、その分、立証(特に、著名性、(事件により)商品等表示該当性)のハードルが高く、認知度・宣伝広告の状況・販売数量・販売期間などについて細かく証拠を提出しなければならず、場合によっては立証の難易度が高くなると考えられます。
今回は、落合製菓の社長が、月夜野ドリンクが積み上げてきた「知的財産」への「配慮」が足りなかったことに気づき、考えを改めたことで、両社が平和的に解決することができました。月夜野ドリンクとしても、レピュテーションリスクが気になっていたようで、結果的には(落合製菓が、権利侵害になることを知らず、地元住民に愛される企業であったことも考慮すれば)Win-Winな解決になっていましたね。とはいえ、OEMというのは、随分と思い切った解決策だなという印象ですが。
なお、作中でも取り上げられていたように、商標登録の存在を知らなくても、権利者から差し止めを受ける可能性があります。
新商品の名称などを検討する際には事前調査を行ったうえで、商標を長期的に安定して使用できるよう商標出願を行うということが非常に重要であり、もし悩むことがあれば弁護士・弁理士にできる限り早めに相談されることをお勧めいたします。
以上で取り上げた以外にも、色々な論点が散りばめられていて、今週も興味深く視聴することができました。
「ふてぶてリリィ」の行く末も気になるところではありますが、予告を見る限りは来週はクリアランスの話がでるようで、こちらも私どもが普段から行っている業務に関するものですので、来週の放送も非常に楽しみにしています。