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病んでる女にまとわりつかれる夫の話(実は私も??)その6

 再度チャイムは鳴らされず、その日は終わった。
 でも、妊娠て何だろう?
 まさか。
 隠し子?
 色々な想像が頭を駆け巡り、尋常ではない精神状態になっていた。
「妊娠て何よ!」
 強い調子で広大に詰めよる。
 私は、出産して間もないために、動物の「雌」としての本能が露骨に現れていた。
 子どもを守るためなら、戦いもいとわない。そんな気分になっていたのだと思う。
「知らないよぉ」
 困ったような顔の広大。
 広大には、沙織ちゃんの妄想は別としても、あまたの前科がある。
 本人は全面否定しているけれど、結婚後義母が勝手に段ボールに詰めて送ってきた書類の中に何通もの怪しい手紙が私の出した封書と混在していた。 
 他の女と歩いているのを目撃したこともある。                                                                        
 だから100%信じることなど、どう考えても無理なのだ。
 それに。
「もし向うの言ってることが本当だったら、稀沙は本妻なんだから相手の女に損害賠償を求めることができるんだよ」
 と、もうお門違いのことを言いだして、さらに私を怒らせた。
 いったい何が起こっているのだ。


 次は、電話だった。
 家の電話にかかってきて、私が取ったと記憶している。酔っ払ったような男の声で、
「てめー、この野郎」
 とか、
「ふざけんじゃねぇ~!!」
 とか、ものすごく汚い言葉で罵ってくる。あまり具体的なことは言っていないけれど、私の中で先日の不審な訪問者と関係があるのでは? とピンと来た。
 そして「雌」がむくむくと頭をもたげてきた。普段であったらこんな暴力的な物言いをする人に向っていこうなど露ほども思わないだろう。それなのに、平気で怒鳴り返してしまったのだ。
「そっちこそふざけんじゃないわよ!! 人の家にこんな時間に電話してきて!!」
 とか、
「何が言いたいのかはっきり言いなさいよ! 酔っ払って電話してくるなんて最低!!」
 とか、同じくらい、いえそれ以上の野蛮な言い方で言い返した。
 広大は、私の豹変ぶりに驚きおろおろしていた。
「ちょ、ちょっと貸して・・・」
 私から受話器を奪おうと必死になっていた。その姿を見て笑いそうになったのを、とてもよく覚えている。

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