見出し画像

秋入学体験記と秋入学に関する提言

こんにちは、東大京大ナビです。昨年の秋に東京大学大学院に入学してから、早いもので1年が経過しました。

さて、私は「秋入学」を経験したのですが、秋入学者はマイノリティであるため、院生生活において生きづらさを感じることがありました。日本では基本的に春入学が前提で社会が動いているため、秋入学者がその存在を主張すると、時には疎まれることもあります。

この記事が、秋入学を検討している方や、国際化を目的に秋入学の拡大・移行を考えている社会に届けば幸いです。


秋入学制度の概要

まず、秋入学とは何かについて説明します。大学によって多少異なるかもしれませんが、ここでは東大大学院の場合について述べます。

東京大学大学院では、多くの研究科で夏の入試(主に翌年4月入学者を選抜)と同時に、その年の10月1日付の入学者も選抜しています。原則として、9月30日までに学部を卒業していることが必要です。ストレート進学より半年早く入学する例は非常に少なく、ほとんどは半年以上遅れての入学です。

主な対象は、夏に卒業した留学生ですが、海外の大学を卒業した日本人学生や、院試浪人を経た学生、社会人を経て入学する学生など、さまざまな理由で秋に入学する人がいます。

秋入学者の割合は正確には不明ですが、工学系研究科では5~10%程度、柏キャンパスの研究科や社会人が多い文系の研究科ではさらに割合が高い印象です。大学全体的には20%程度ではないかと推測されます。https://www.t.u-tokyo.ac.jp/hubfs/Master_2025.pdf

ちなみに、秋入学でも修士課程の標準修業年限は2年、博士課程まで進むと5年です。また、学年も10月1日付で進級します。つまり、2023年10月に入学した私は、2025年9月に修士課程を修了する予定です。

ここからは、秋入学を経験して感じたことを述べ、その後、秋入学制度に関する提言を行いたいと思います。

学業について

大学院の場合、学部のように体系的にカリキュラムが組まれているわけではないため、授業履修自体には大きな問題はありませんでした。むしろ、後述する就職活動の時期が入学時期とずれるため、最初の半年を学業に集中できるという大きなメリットがありました。就職活動に役立つ論文や学会発表、演習、コンペなどの成果も十分に得られます。

また、これは東大特有の話ですが、学部の専門科目は進振り後の2年生の秋から始まるため、学部生の授業や演習に参加すると基礎を身に付けやすいという利点もありました。

しかし、研究室ごとに体系的な教育を行っている場合(基礎知識やスキルの習得、機器の使い方など)、秋入学者は十分な指導が受けられず、不利益を被る可能性があります。国内の大学院では、依然として春入学が主流です。また、通年開講の授業が履修しにくかったり、論文執筆の時期が他の学生とずれて孤独を感じることがあるのもデメリットでしょう。

学部においては、体系的なカリキュラムが組まれていることが多いため、同じ学部で春入学と秋入学の両方を採用するのは困難かと思います。教養科目が全学部で開講されることを考えると、全学で春入学か秋入学かを統一する必要があるかもしれません。

人間関係

大学院は個人の能力や経験を高める場であり、友人作りは優先事項ではないかもしれませんが、やはり春入学者で既に人間関係が築かれている中に途中から加わるのは難しかったです。特に外部からの進学では、春入学者ですら内部生の輪に入るのが難しいと言われているため、秋入学でさらに半年遅れると、その困難さは明らかです。

ちなみに、秋入学者は「真の同期」が少ないため、同期意識はどちらかというとその年の春入学者(半年先輩)との間に生まれます。逆に、次の年の春入学者(半年後輩)との間には上下関係が存在します。秋入学を活かして両学年とフラットな関係を築こうと考えることもありますが、実際には受け入れられません。

学部生の場合、大学院生以上に集団行動が多いため、秋に入学したとして「真の同期」が少ない状況はかなり苦痛でしょう。課外活動に馴染めないだけでなく、授業も孤独に受けることになれば、最悪の場合留年のリスクもあります。

課外活動

大学院生の場合、そもそも課外活動に参加する人が少ないため(私は参加していますが)、秋入学が課外活動に与える影響は軽微でしょう。学生サークルの場合、院生を受け入れてくれるところであれば、春でも秋でも入会に大きな違いはなく、社会人サークルであれば通年入会可能です。

しかし、学部生の場合は春に部活やサークルに入会しないと人間関係で苦労する可能性が高いです。秋は新入生歓迎イベントが少なく、課外活動の情報にアクセスするのも難しくなります。また、春にしか入会を受け付けない部活やサークルも多々あります。

さらに、学部生の多くがインカレサークルに参加しますが、特定の大学だけが秋入学に移行すると、他大学の団体に参加しづらくなります。自前で多くのサークルを持つ大規模大学でなければ、秋入学の導入は学生の課外活動に大きな制限をかけることになるでしょう。

奨学金

日本の民間奨学金の多くは春入学を前提としています。多くの財団では年に一度、春にしか募集がなく、採用されると4月分からの給付となります。驚くべきことに、秋入学を導入している東大自身が運営する学内奨学金ですら、春入学生しか対象としていないケースもあります。さらに、博士課程の学生の主要な経済支援となる日本学術振興会の奨学金(学振)も、春入学を前提としています。

幸い、日本学生支援機構の奨学金は秋入学にも対応していますが、貸与型なので、結局は借金です。なお、奨学金の応募には研究テーマに関する記述や研究成果、指導教員の推薦書が必要なため、外部進学者が春に入学してすぐに応募するのは難しい場合もあります。

学部生においても、秋入学による奨学金の機会損失は大きな問題となるでしょう。

住居

秋入学の金銭的なメリットとして、引越し代が安く済むことが挙げられます。遠距離の場合、5万円ほど安くなることもあります。賃貸物件の数は少ないものの、春ほど競争が激しくないため、物件探しも容易です。

しかし、大学や民間の安価な寮は春にしか募集がないこともあります。また、幸運にも入寮できたとしても、卒業後から春の入社までの半年間が空く場合、その後の住居確保が難しくなります。社員寮に住むこともできず、新たに住まいを探さなければなりません。

アルバイト

一般的なアルバイト(飲食店やコンビニなど)なら、秋でも見つけにくいということはないでしょう。しかし、特殊なアルバイト(学内での仕事やフルタイムの職種など)は、やはり春の方が見つけやすいと思います。

就活と卒業時期

就活に関しては、国内大手企業が春の一括入社を原則としているため、半年後輩の学生たちと一緒に就活を進めることになります。秋入学そのものが就活で不利になるわけではありませんが、秋入学の理由を質問されることがあり、また、企業側が秋入学制度をよく理解していない場合もあるので、少しストレスを感じることがあります。さらに、就活が長引いた場合、修論執筆と就活が重なる可能性もあります。

また、秋に卒業すると半年間の「空白期間」が生じます。経済的に余裕があれば海外旅行や自由な活動ができるでしょうが、そうでない場合、春の入社までの半年間に働き口を見つける必要があります。しかし、内定を持った状態で半年だけの仕事を見つけるのは難しく、アルバイトですら限られた選択肢しかありません。
博士課程の場合でも、アカデミアへの就職を目指す場合、ポストが空くのは主に春です。

就活は学部卒でも修士卒と大きく異ならないため、秋入学の学部生にも同様の問題が発生します。ギャップイヤーと聞こえは良いですが、無所属の期間中に必要な支援を大学側が提供することが求められるでしょう。

実際には、秋卒業後に半年間のフリー期間を持つより、最終年度の春学期を休学し、就職直前に卒業する学生が多いです。国立大学なら休学費が無料で、休学中の大学施設の利用制限も少ないため、春入学者よりも半年長く学生生活を送ることができます。

資格

卒業と資格が直接連動しない資格(国家総合職試験、一級建築士、宅建士など)は、秋入学を活かしてギャップイヤーを利用し、資格取得のために時間を割けるメリットがあります。

一方、医師や薬剤師、栄養士など、卒業と資格試験が密接に関連している場合、試験は2月に実施されるため、秋入学・秋卒業だとカリキュラムとの整合性が取れません。医歯薬系の学部がネックとなり、大学全体での秋入学移行は難しいでしょう。

まとめと提言

冒頭でも述べたように、秋入学は本邦ではマイノリティーです。日本は基本的に「春入学社会」です。総括すると、秋入学のメリットは、最初の半年間、学業に集中できることくらいでしょう。もしギャップイヤーを取りたいのであれば、春入学でも休学すれば問題ありませんからね。

ただし、秋入学者は大抵、留学や浪人を経て志望を持って入学する人が多いので、半年でも早く理想の環境に身を置けることは、幸せなことかもしれません。

メリットは少ないと書きましたが、大学院においては秋入学制度の導入には賛成です。大学院はコースワークの割合が少なく、入学時期の選択肢が増えることは良いことです。大学院の場合、大学側の課題は比較的少ないので、社会全体(企業や財団)がもう少し秋入学を考慮してくれればと思います。「院卒の人材は秋にも入学し、秋にも卒業する」という認識が広まれば、就職や奨学金に関する不利益も減るでしょう。このためには、より多くの大学院が秋入学制度を導入することが必要です。学部の卒業制度を柔軟にし、3年半や4年半での卒業者を増やすことで、大学院の秋入学者も増えるかもしれません。

また、大学(や生協)側が秋入学者に対してもう少しサポートを充実させることも重要でしょう。例えば、秋入学・秋卒業に関するキャリア相談の機会や、少数の同期となる秋入学者同士の交流の場があれば良かったと思います。せめて、学内奨学金の対象を春入学生に限定するのはやめてほしいです。さらに、ギャップイヤー中の長期インターンの斡旋などを行ってくれれば、金銭面の不安も軽減されるでしょう。

ともかく、一部の専攻だけで秋入学を導入するのではなく、大学全体で秋入学制度を取り入れることが重要でしょう。そうでなければ、大学全体の制度設計が追いつかず、サポートが不十分になる可能性があります。


一方で、学部に秋入学を導入するのは難しいと考えます。学部生はコースワークが多く、春入学と秋入学を併用するとカリキュラム設計が困難になります。さらに、一部専攻のみが秋入学に移行しても、課外活動や人間関係がうまく構築できない問題が生じるでしょう。就職活動も修士卒に比べて学部卒の方が大変(専門に関わらず多くの企業を受けるため)であり、卒論や単位取得と就活の両立が非常に難しくなります。

むしろ、秋入学の導入よりも、夏にも一般入試を実施する方が良いと考えます。これにより、高校生は早めに進路を決められ、浪人生も18歳という貴重な時間を1年間も高校範囲の勉強に費やす必要がなくなります。高校範囲が終わらないうちに大学入試を行うことに対しては批判もあるかもしれませんが、大学院の入試も卒論が始まる前に行っていますし、新卒就活も卒業できるか分からない学生を対象に採用活動を行っています。したがって、問題はないのではないでしょうか。

なお、大学院に関しても、春・秋の2回の入学時期を設けるより、夏・冬の2回に入試時期を設定する方が良い案かもしれません。

昨今、「多様性」が声高に叫ばれています。入学時期なんて大きな属性ではないかもしれませんが、少数派である秋入学者が生きやすい社会になってほしいと願います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?