なぜ、あのとき、香港で
年の瀬を迎え、今年もいろいろあったなぁと思うも
忙しさにかまけてあまり文章に残すことができなかった2019年。
これくらいは書いといた方がよさそうなんで頑張ろう。
なぜ、この夏、香港で。ちょっと長くなります。
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思い返せばことの始まりは2009年まで遡る。
国際ソムリエ協会主催のアジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクールと
総会が大阪で催されることになり、運営は当時の日本ソムリエ協会の副会長
岡さん率いる関西支部(当時)に委ねられ、僕も言語力を買われ参加した。
一週間にわたるプログラムは今思ってもとんでもないスケジュールで、
関空での出迎えから最終日のガラディナーまで非常に濃厚な時間。
濃厚すぎてキチンと思い出せないが総会やコンクールの合間に約200名で
京都に行ったり神戸ワイナリーに行ったり回転寿司店を貸切ったり・・・。
アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクールに参加する各国の選手と
その国のソムリエ協会のお偉方、それに加えて総会に参列する欧米各国の
代表者たち、という世界中のワインとサービスのトッププロとの一週間。
特にセルジュ・デュブスやフィリップ・フォール=ブラックといった
ソムリエをしていれば誰でも知ってる遠く偉大なソムリエもこの時は
目の前にいてこちらがフランス語が苦手だと見るやゴリゴリに訛った英語で
丁寧に話しかけてくれたのがとても印象的だった。ソムリエって優しい。
そんな濃厚な一週間は海外の皆さんにとってもややストレスだったのか、
打ち解け始めた2~3日目には「タッシー、今夜はどこで飲めばいい?」と
尋ねられることがしばしば。会場と全員の宿泊が福島のリーガロイヤルと
好立地だったことも災いし、毎晩のように北新地や福島に繰り出す羽目に。
ロビーで出会った目的を同じくする異国の同業者をナンパしては大人数で
知人や先輩の店に繰り出し迷惑をかけたものである。実に懐かしい。
特に最終日のガラディナーはとんでもなく盛り上がり、僕の記憶が確かなら
ボジョレー・ヌーヴォーの解禁日と重なり、日が変わると同時に乾杯。
お開き後は上のフロアのバーを貸切り大カラオケ大会だった。
全員で合唱したWe are the championには心震えたものである。
そのあとも飲み足りない、主に選手たち(重圧から解放されたと見える)と
友人の店に移動して朝まで深夜のブラインド大会で別れの時まで楽しんだ。
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この時築いた彼らとの友情は、その後大きく発展したSNSを通じて保たれ、
近年個人的に彼らの国を訪れた際にも大きな支えとなってくれている。
また、彼らの各協会内での地位も上がり、若い世代を育成する立場に。
お互いの若手を紹介しあうシーンも増え、より密度の高い関係となった。
特に香港のメンバーとは物理的な距離や利便性も伴い、頻繁に会うことに。
香港を訪れるたびに2009年に選手や引率として来日してたメンバーから
イキのいい若手ソムリエを紹介してもらい、彼らとの交流が始まる。
その後、若手はその謙虚さ・勤勉さをもって香港を代表するソムリエとなり
コンクールにおいても次第に結果を出してくるようになった。
※この頃にはアジアにおける日本の一強時代は完全に終焉を迎えていた。
※それでも日本の選手が他国から見てレベルが高いのは言うまでもない。
最近だと僕もガラディナーのサービスに駆り出された2018年の同京都大会。
2位に食い込んだReeze Choiと惜しくも決勝進出を逃したDerek Liのふたり。
ガラディナーのあとも京都の街で朝まで健闘を称えて飲み明かした。
今年のはじめのある日、京都でも一緒だったWallace Loから連絡が入る。
「大阪に行くプランを立てていてタッシーの店でも食事がしたい」との事。
彼は2015年の同中国大会にて、かの石田さんに次いで2位となった猛者だ。
それもなかなかの僅差での結果だったと聞いている。
断る理由もなく予約を受けてその後どこに飲みに行くかの相談も済ませた。
当日やってきた彼は料理とワインのペアリングに随分感激してくれ
食後、場所を移して「いつかコラボしたいね」と話しながら飲んだ。
その時は正直社交辞令だろうと思ったが、彼からのアプローチは早かった。
そのとき「いつか」が「いつ」に変わった。実に現代らしいスピード感だ。
こうして彼がヘッドソムリエを務める香港のHAKUでのコラボが決まる。
シェフ同士、またはレストラン同士のコラボは最近では珍しくもないが
ソムリエ同士でコラボするというのは自分自身も初めての経験だった。
舞台となるHAKUは香港を代表するレストラン、ただしかなり異色。
シェフはアルゼンチン出身で龍吟でも修行経験のあるAgustin Balbi、
スーシェフはベネズエラ出身のDaniel Rojas、そして料理は日本料理。
彼らのチームが創り出す料理は想像をはるかに超えて素晴らしかった。
伝統的な日本の出汁の引き方に合わせる食材の発想が西欧ではなく南米。
ラテンアメリカのベスト50を見てもわかるがその組み合わせの妙が凄い。
食材の組み合わせ、調理法による食感の違い、香りの使い方。そして旨み。
そのどれもが高いレベルでペアリングの想像力を刺激されるものだった。
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話をもらった当初から決めていたことは「すべて日本の飲みもので」。
しかも可能な限り日本酒は使わず、日本ワインでペアリングを狙う。
送られてきたレシピとにらみ合い、核となるペアリングから全体を眺める。
いつも通りのやり方だがいつもと異なる縛りを入れた分、時間がかかった。
※ちなみに従来の縛りは国・品種をすべて異なるもので組む、というもの。
実際に試食するのは現地に行ってから。イメージだけで作業を進める。
いつも通りのことだがこの作業中は本当に集中してる自分を意識できる。
せっかく日本ワインを紹介するのだから生産数は少なくても良いものを。
どんどん自分の縛りを厳しくしてしまいちょっと溺れそうになった。
悩んだ結果、ラインナップ決定。あとは現地での試食で温度やグラス調整。
APERITIF
Sansho Ale / Iwategura Beer
山椒エール / いわて蔵ビール
FOIE / HOJALDRE
Puff pastry, kabocha purée, bacon, shiso
Pink Frizzante 2017 / Grape Republic
ピンク・フリッツァンテ 2017 / グレープ・リパブリック
OYSTER / ASPARAGUS
Yogurt sauce, lime, ponzu, olive oil
El Mar Albarino 2017 / Fermier
エル・マール・アルバリーニョ 2017 / フェルミエ
DASHI / CHORIZO
Daikon, mochi, shitake
Madogiwa 2017 / Domaine Ponkotsu
窓際 2017 / ドメーヌ・ポンコツ
SASHIMI
3 different raw seafood preparations
Nana-Tsu-Mori Pinot Noir 2016 / Domaine Takahiko
ナナツモリ・ピノノワール 2016 / ドメーヌ・タカヒコ
TOMATO / IKA
Tomatoes, berries, capers, raw squid, lardo
Sawaya Matsumoto kocon / Matsumoto Brewery
澤屋まつもと ココン / 松本酒造
LOBSTER / OLIVES
Cauliflower purée, bisque, olives, shio konbu
Nora Blanc 2016 / Norakura
ノラ・ブラン 2016 / 農楽蔵
COD / CORN
Spicy Humita sauce, baby corn, onions, olive oil
Late Bottled Delaware 2017 / Domaine des Papilles
レイト・ボトルド・デラウェア 2017 / ドメーヌ・デ・パピーユ
WAGYU / MAITAKE
Charcoal grilled, maitake mushroom, potato croqueta
Seba Cabernet Franc 2016 / Domaine Oyamada
洗馬 カベルネ・フラン 2016 / ドメーヌ・オヤマダ
RICE / KATSUOBUSHI
Egg yolk, katsuobushi, jamón de bellota
Koshu F.O.S 2016 / Coco Farm & Winery
甲州 F.O.S 2016 / ココファーム&ワイナリー
PEACH / SANSHO
Panna cotta, peach purée, peach fresh, sansho
Tegumi 2017 / Tamba Wine
てぐみ 2017 / 丹波ワイン
CHOCOLATE / SAKE
Textures, sake ice cream, cacao nibs.
Gris et Gris 2018 / Funky Chateau
グリ・エ・グリ 2018 / ファンキー・シャトー
上記のワインを必要数集めて現地に送ることが正直最も大変だったが
惜しみなく協力いただいた友人たちと生産者の皆さんには感謝しかない。
僕というフィルターを通してのご紹介を快諾いただけたことは喜びです。
ソムリエ同士のコラボなので相方のWallaceも彼なりのペアリングを展開。
こちらはワールドワイドなセレクトかつなかなかに尖った組み合わせ。
正直いくつかは彼のペアリングの方がよりWORKしてた。素晴らしい。
ゲストは大量のアルコールを摂取することになるので(各皿×2種ペアリング)
始まるまではちょっと心配してたのだけれどそこはさすがと言うべきか、
香港きってのフーディやワインラヴァ―、トップソムリエたちとその友人、
日本からも友人たちが参加してくれたおかげで全くの杞憂に終わった。
イベント自体は成功と言えると思う。
そもそもソムリエという立ち位置は特に料理が作れるわけでもなく、
(本当に良いソムリエってのは料理もできるものだと思うけど)
ワインを作れるわけでもなく、ただただその二つを結びつけることで
ゲストをはじめとする周りの人間を幸せにする、ある意味正解のない仕事。
そんな立ち位置の僕にとって今回のオファーはとてもありがたい事だった。
なにかを作り出してるわけではない分、知恵を出して幸せを届ける。
ホスピタリティという点を評価してもらってのオファーだったのだろう。
ソムリエである前にサービスマンとしてこれ以上に幸せなことはない。
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最後になったが今回のイベントのタイミングについて。
なぜ、あのとき、香港で。
当時、俗にいう反送中と呼ばれるデモが活発になっている中の渡港に
良い意味では心配され、悪い意味では否定的な言葉をいただいた。
当時は現在の局地化した落とし所の見えないデモ隊と警察の衝突とは違い
若者を中心に黒ずくめの姿で居座る静かなデモが主流だった。
間の悪いことにちょうどイベント前日のフライトのタイミングで
デモ隊が空港を占拠し、香港発着便のすべてが欠航に。
翌朝に振り替えられた便で到着し、そのままHAKUへタクシーで向かった。
それ以外ではほとんどデモによる影響はなく、いつもの日常の空気感。
念のため事前に現地の友人たちに確認した情報の通りだった。
まさかここまでデモが長引き拡大するとは当時は思わなかったが
今思うとあのタイミングで報道と現地の空気感の差を肌で感じられたのは
有意義なことだったと今では思える。いろんな意味で行って良かった。
サッカー元日本代表の内田篤人の名言、
「僕は自分が見たことしか信じない。」
僕も自分が見たことしか信じない。
いろんな意見の渦巻く中に飛び込んではじめて見えたものが確かにあった。
また来年も香港へ行こう。
P.S.
TIRPSE香港にも行かなきゃ!