知的生活の進化:1976年の教えと2025年の実践
渡辺昇一『知的生活の方法』
渡辺昇一氏の『知的生活の方法』を読んだ。「知的でありたい」と願う者にとって、身にしみる指摘が多く、刺激を受ける内容だった。
本書の「まえがき」では、古典となっているハマトンの『知的生活』が取り上げられており、「時代が異なるため縁遠い話も多いが、それでも現代に示唆を与える名著である」と評価されているが、それは本書にもあてはまる。出版されたのは1976年であり、「古いなぁ」と感じる点は多い。が、2025年の現在にもなお、多くの示唆を与える内容となっている。
本書では、知的生活を送る上で避けられない空間、時間、そしてお金の制約をどうやって克服するかに、焦点があてられている。筆者は、自らの経験や事例を通じて、その壁に立ち向かう術を語っている。例えば、書斎を確保するためにマンションの一部屋を借りるというツワモノの話や、読書の情報を手書きのカードで整理する「カード・システム」などが紹介されている。
紙の本と現代技術の融合
本書を読みつつ、「紙の本」や「手書き」が持つ魅力に改めて思いを致す。紙の本は、ページをめくる感覚や手触りが五感を刺激してくれ、それ独特の不思議な力を感じる。また、「手書き」を通して、その内容が消化吸収され、より腹におちていく効果も見逃せない。アメリカの職場ではあまり見ないが、私は未だに紙のノートでメモをとっている。本書では、物理的・時間的な制約に抗いつつ、そういった効用の恩恵に存分にあずかっている知識人のありようが多く紹介されており、成る程と頷くことも多かった。その反面、現代の情報技術が持つ力の大きさも改めて実感する。
例えば、本書では購入した本の収納場所をどうするかが重要なテーマとして語られている。「知的生活」を志すものにとって、蔵書はその核だ。父親が書斎を持っていたので、子どもの頃から「書斎」という空間への憧れもあった。しかし、電子書籍が普及した現代では、インターネットに繋がりさえすれば、どこにいても購入した本にアクセスできる。それこそ、旅先の宿でふと思い出した本をすぐに読むことができるというのは、昔はできなかった知的刺激をもたらしてくれる。
紙の本独自の魅力を否定するわけではないが、現在の私は基本的には電子書籍で読み、特にじっくり、そして何度も読み返したい本だけを「紙の本」として購入するスタイルを取っており、これは良い所取りとなっており気に入っている。
また、本書で紹介されているカード・システムに関しても、現代技術がその進化版を提供している。手書きのカードを使って本の情報や引用を整理するという方法は大変時間がかかるやり方なので、私はReadwiseというWebサービスを活用している。これが非常に便利であり、知的生活に欠くことのできないツールとなっている。
Readwiseという知的生活ツール
Readwiseは、電子書籍や物理書籍のハイライトをデジタルカードとして収集・整理できるツールである。その機能は次のような特徴を持つ:
Kindleでハイライトした箇所を自動的に収集し、保存する。書き写したり、読み直す必要がなく、一斉にインポートできるので、いつでも読み終わった本の復習ができるようになる。
各カードにタグを付けることが可能で、タグを活用することで特定のテーマに関連する情報を一括で参照できる。
過去のハイライトを5つランダムに表示してくれる機能がある。何日連続で復習をしているかを表示する機能があり継続する仕組みが整っている。これにより、読みっぱなしを仕組みとして回避することができる。
本書が語る「カードの入れ替え」や「ファイル・ボックス」の概念を、大して時間をかけることなくデジタルで実現するのがReadwiseの魅力だ。すべての機能を使用するためには月々$8かかるが、私はReadwise無しの知的生活は想像できない。
失われるもの、補完されるもの
最新の技術を常に学びながら、活用していく姿勢は大事だ。ただ、「ツールが充実し、効率化は進んだ結果として、削ぎ落とされてしまったことは何か」という点には常に注意を払いたい。
沢山の本が並んだ本棚に囲まれて、入っただけで学習意欲が少しかきたてられる書斎という空間の力
美しく重厚に装丁されて手に取ったことで学ぶ心が整い、その厚さや手触りだけで本の性格を醸す紙の質感
自らの頭に一度流しこみ、頭だけでなく手を使って消化することができる「書く」、そして「タイピング」という行為
これらは、Kindleでぴゅっとインポートし、スマートフォンでつるっと眺めることを通しては決してえることはできない。
雰囲気のいかした喫茶店で、手元に置くためだけにかったとっておきの「紙の本」をじっくり読む時間を作る
本を読みっぱなしにするのではなく、それについての書評を書くことを通して内容の消化を試みる
など、色々な形で不足分を補うことができるので、ツールの便利にあぐらをかくだけでなく、失われたものにも目を向けて、補完するよい方法を2025年も探っていきたい。更新頻度はまちまちですが、本年もよろしくお願いいたします。