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わが家の「書評の日」—5年以上続けてわかった、子どもが本を読む習慣をつける方法

先日書いた『アメリカ生活11年、それでも「日本語が強い」わが家の子どもたちの話』という記事の、2週間に一度の家族の「書評の日」の部分への反響が大きかった。「子どもにもっと本を読んで欲しいな」というのは多くの親の共通の悩みだと思う。うちの事例が少しでも役に立てばと、わが家の2週間に一度家族で本を読んで書評を書くという「書評の日」について、もう少し深堀りして紹介したい。

まずは「目的」を共有する—子どもの納得感が大事

子どもにとって学校の課題とは関係なく2週間に一冊本を読み、書評まで書くというのはハードルが高い。その「書評の日」を定着させるには、なぜやるのかを家族で十分に話し合うことが不可欠。単に「文句言わずにやれ!」と言っても、子どもたちは納得しないし、どうせ長続きしない。

なので、開始にあたってわが家では、私から渡米して数年たち、家族全体で読書の量と質が下がっているという問題提起をしつつ、次のような目的を伝えた。

  • 読書の機会を増やしたい → アメリカ生活が長くなるにつれ、家族全体の読書量が減っているので「きっかけ」が必要

  • 読書は人生を豊かにする → 読書を楽しむことができれば、一生学び、楽しむことができる

  • 日本語力の維持 → いつか日本に戻るかもしれないので、日本語をきちんと使えることは重要

  • アウトプットの場を作る → 日本語での「書く力」はアウトプットが大事で、定期的に実施し、量をこなすことも大事

これらのことを、「子どもたちの問題」ではなく、親の読書不足を認めた上で「家族全員の問題」として、家族で一緒に取り組もうという提案とした。「やらされている」感が強すぎると長続きしない。が、「まぁ、だるいけど、やったほうが良いことはわかる」くらいに思えれば、まずはスタートラインに立てるし、長く続けるための土台にもなる。

親も一緒にやることが大事

「お父さんとお母さんは家事や仕事で忙しいけど、君たちは学生だからやりなさい」というのは、わが家では絶対に通用しない。「読書は人生を豊かにする」という見栄をきった以上、親も人生を豊かにすべく努力が必要だ。

また、環境は非常に大事だ。親が日常的に本を読んでおり、家に沢山の読む本がある—こうした環境が整っているかどうかは、子どもの納得感ややる気に大きく影響する。私の父は自宅に立派な書斎を構え、本に囲まれた生活を送っていた。私が読書が好きなのも、そんな背中を見ながら育ったことは大きい。別に、大きな書斎は必要ないと思うが、親が日常的に本を読んで学んでいる姿を見せることが、何よりの説得力になる。

「やる気」を引き出す仕組み

報酬制にするか?ペナルティ制にするか?
これについては、わが家の子どもたちで意見が分かれた。私は自分のためにする読書なのだから、報酬もペナルティもなくて良いと思っていたが、「そういうものがあったほうが続けやすい」という意見が子どもからでた。
最終的には、姉の意見が取り入れられ「やらなかったらゲーム時間が減る」というペナルティ制が導入されたが、結局、一度もペナルティが発生することはなく、今では存在すら忘れられてる

  • 「書評を書いたらご褒美がある」報酬型(ゲームの時間が増える、お小遣いをもらえる)

  • 「みんなで競う」ゲーム型(順位ごとのポイント制にして、ポイントを漫画と変えられるようにする)

など、仕組みは色々考えられるが、子どもの「これなら続けられそう」という声に耳を傾けることが大事だ。

書評を書く時間と場所を決める

わが家の場合は「2週間以内に本を読んで、書評を提出」と決めたところで、結局ギリギリまでやらないのは目に見えていた。そこで、下記の通り「書く時間と場所」をルーティン化することにした。

  • 書評を書くのは日曜日の午後に固定

  • スターバックスに行って、みんなで一斉に書く

  • その時は好きな飲み物を頼んでOK

おそらく近所のスタバの店員は、「あのアジア人家族、たまに来て、誰も話さずに、全員鬼の形相でパソコンをカタカタやってるけど、何者なんだ…?」と思っていることだろう。

でも、この「場所を変え、ちょっとした楽しみを加える」ことで、書評を書くことがイベント化し、自然と続けられるようになった。

フィードバックを丁寧にする

書いた書評を、読んでフィードバックしてあげることは、続ける上でとても重要

「とりあえず書いたから終わり」ではなく、「自分の文章がきちんと読まれ、評価されている」という感覚 を持たせることが、継続のモチベーションにつながる。

言い出しっぺなので、そのフィードバック役は私が担っているが、下記の点をいつも注意している。

  1. 必ず「良い点」から伝える
    「折角書いても、またお父さんに色々言われる」と子どもが思ったら続けることはできない。必ず良い所があるので、その部分はきちんと褒め、「自分が上手くできたこと」を伝えることは、モチベーション維持にも、「書く力」のアップにも重要。

  2. 改善点は具体的に
    「ここをこうすれば、もっと言いたかったことを上手に表現できたんじゃない」とお手本を示すことも大事。「あぁ、そういう言い方があったか!」と感じれば、すっきりするし、表現の幅も広がっていく。

  3. 指摘は1回につき1〜2点にとどめる
    ダメ出しが多いと、当然やる気は薄れていく。改善点が多すぎては返って逆効果なので、長く続けることができるよう配慮をすることが肝要だ。

楽しさも大事なので、漫画やテレビ番組のネタをとりいれることもある。例えば、わが家は「プレバト」の俳句コーナーが好きなので、書評のフィードバックをする時に

ここの着眼点はとても良いです。ただ、この部分の表現をもう少しこういう風に工夫すると、特待生も見えてきますね!

みたいなフィードバックを送ると、「ありがとうございます、夏井先生!頑張ります!!」みたいな返信があり、ちょっとした遊び心も加わる。

本選びは自分でする

どの本を読むかは、本人がそれぞれ決めることとしている。「読書の楽しさ」を覚えることがまずは大事なので、「自分が選んだ読みたい本を読む」というのをわが家では大原則としている。
「ちょっと背伸びした本」というゆるい目標設定をしているが、子どもの選んだ本を却下したことは一度もない。
もちろん、特定のジャンルに偏ることはあるが、それは「楽しんで読んでいる証拠」でもあるので、あえて制限はしない。あまりにも同じジャンルが長く続いた時に、「次は、こういう本を読んでみても良いかもね」と軽くすすめることもある。が、それはきっかけを与えているに過ぎず、子どもの決定を尊重している。
なお、一時期次に読む本を決めるまでに、5日ほどかかることが状態化したので、「書評の日」に次に読む本を決めるというルールを取り入れた。

「続けること」を第一の目標にする

今は2週間に一度の「書評の日」が完全に習慣となったが、そうなるまでに色々調整を繰り返してきた。その調整の過程では、完璧を求めすぎず、とにかく続けることに一番重きをおいた。

  • 書評のクオリティよりも、「書くこと自体」を評価する

  • たまに、本の読み込みも書評の内容のイマイチなこともあるが、「長く続ければ、そういう時もあるのは当然」とし、くどくど指摘をしない

  • 「やめないこと」を最優先にして、楽しく続けられる形を模索する

長く続ければ、子どもは間違いなく成長していく(大人はその限りではないことは私のブログがはからずも証明しているが)。本を読み、自分なりに考えをまとめることが、「義務」ではなく、「当たり前の日常」にすることが大事。そのためには、「続けること」に徹底的にこだわることだ。

まとめ:書評の日を続けるコツ

  • 目的を共有し、子どもが納得できる形にする

  • 親も当然一緒にやる

  • 楽しく続けられるルールを作る(報酬 or ペナルティ制)

  • 書く時間と場所を固定し、イベント化する(スタバなど)

  • フィードバックはポジティブに、指摘は最小限に

  • 何より「続けること」を最優先にする

「書評の日」を5年以上続けてみて、子どもたちの日本語力が確実に伸びたのを実感している。娘は日本に帰国し、現在受験小論文に取り組み中だが、小論文ではいつも一定以上の成績をおさめている。息子も書評ではないが先日行われた、とあるビブリオバトルの大会で優勝し、確実に成果をおさめている。
そして何より、家族全員が「本を読む楽しさ」に改めて気づくことができたのが一番の収穫だ。先日、息子が補習校の文集を書きながら、「あぁ、文章書くの、好きだわ」と言ったのを聞いて、「あの坊主が、、、」と泣きそうになった。

海外でお子さんの日本語力維持に悩んでいる方は多い。それぞれの過程がそれぞれのやり方で取り組んでいるだろうが、面白そうだなと思ったら、「書評の日」を試してみては。

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