個人開発の限界と強み...削ぎ落とし、尖らせる
一人でゲームを作り、販売までこなす。個人開発者の制作過程は様々な不安で満ちている。他のゲームと比べて見た目が地味、ボリューム不足ですぐ飽きられるかもしれない、必要な機能が多すぎて実装が終わらない...技術も労力も常に不足している。
周りを見れば豪華なゲームが市場に溢れかえっている。大手企業のビッグタイトルの乱立はもちろん、成熟したインディーゲーム界隈では作り込まれた良作が手頃な価格で手に入る。巨大化したゲーム文化において、個人開発者の存在感は決して大きくない(少なくとも日本では)。
チームで開発されたゲームを相手に個人が物量で勝つのは難しい。ここで言う物量とは単にやり込み要素やプレイ時間の長さの話だけではない。作り込まれた映像やUI・サウンド、ストーリーやテキストによる味付け、ネット対戦やマルチプレイといった便利機能の充実など、あらゆる部分で差がつく。
アイディア1つで立ち上げた夢が、市場のパワーに圧倒される内に劣等感と焦りに変わっていく。小さなビジネスの立ち上げ時にはよくある話なのではないかと思う。
小規模な開発においては何を作るかより、何を捨てるかを頻繁に考えることになる。それらが全てネガティブな選択になるなら、自分の商品に自信を持てるはずがない。
この記事では僕が個人開発者として取捨選択したことと、その際に見出した「捨てる意味」について述べていく。自作品の紹介も兼ねているので宣伝くさくなるが(中々ダウンロードされなくて困ってます!)、開発を通して得た知見を提供できると思うのでご容赦願いたい。
オフラインに特化する
プシュプはスマートフォンに最適化された落ち物パズルだ。上下につながった2つのフィールドで連鎖を消して競い合う。1つのデバイスで2人対戦ができることが売りなのだが、ここにネット対戦を加えるかどうかでずっと悩んでいた。
昨今のゲームはネットワーク対応が当たり前になっている。友達とオンラインで協力プレイを楽しんだり、見知らぬ相手とマッチングして対戦できることは何ら特別な価値ではなくなった。
ネットワーク関連の技術がない自分からすればネット対戦を実装するコストは低くない。それでも、他者が当たり前に実現している機能が自分のゲームにだけないのは、必ず弱点になると思っていた。
言い訳になるが、僕は体が弱く長時間働くことができない。個人でネットワークサービスを継続的に運営しつつ、予想外のトラブルに素早く対応する自信がなかった。
そもそも無名な個人開発者のゲームでは、オンライン機能があっても人が集まらない。幸いAIを組む技術はあったので、プシュプはオフラインでいつでもコンピュータと戦うことができるようになっている。いずれにせよ、自分のペースで気軽に練習できる仕組みが必要だからだ。
一人で遊べる環境も整ったし、色々面倒なのでオンラインは捨てよう...とやや後ろ向きに考える中、重要なことを思い出す。そもそもこのゲームのコンセプトの1つは「対戦ゲームで人と人をつなぐ」ことだった。
携行しやすいスマホを用いれば、いつでもどこでも気軽に対戦を楽しめる。1台のデバイスを挟んで2人で向かい合い、顔を突き合わせて遊ぶのがプシュプのスタイルだ。対戦ゲームをコミュニケーションツールにし、会話のきっかけにしてほしいと考えていた。
「オンライン機能がないと市場についていけない」という不安に駆られ、他のゲームと比較ばかりしていたことに気づいたのである。オフラインに特化することで、むしろプシュプの個性が際立つはずだと。
実は、ネット対戦を付けなかった理由の1つに中毒性の問題がある。顔の見えない無数の相手に黙々と勝ち負けを繰り返すオンラインゲームが、時に強いストレスを生み出すことを経験上知っていた。
プシュプを遊んでいてどうしても勝てないのなら、自分を負かしている友達に直接コツを教わってほしい。誰かが一人で苛立ちを溜め込んでいるのを見たくなかった。プシュプをどう遊んで欲しいかを想像することにより、オンラインへの執着を捨てることができたのである。
少し話がずれるが、プシュプには一人で遊べる「レッスンモード」が付属している。問題形式で様々なテクニックを学べるようになっており、オフラインコンテンツの充実に一役買っている。オンライン機能がない代わりに、一人でも十分に遊べるよう工夫した結果だ。
一応断っておくと、オンライン機能の価値そのものを否定している訳ではない。僕自身がネット対戦好きなことは付記しておく。結局のところ、他の商品の多機能性に惑わされることなく、自分のゲームに適した機能に絞り込むことが重要なのである。
得意分野で演出する
個人開発者がほぼ確実に苦しむのが演出面の地味さだ。ここで言う演出とは「ゲームシステム以外」のことで、グラフィックやサウンド、テキストやストーリーなど、ゲームを彩るための外見や賑やかしを指す。総合芸術とも言えるゲームの演出は多岐にわたり、一人で全てのセンスを磨く時間はまずない。
例えばグラフィック1つ取っても、キャラクターの絵を描くのかエフェクト(火花や斬撃などの動き)を描くのか、あるいはUI(メニュー画面やHP表示など)を構築するかで作業内容が違ってくる。枝分かれした領域を一つ一つ作り込むことでゲームはリッチになっていく。
個人開発者がこの全てを磨き切るのは難しいが、手を抜けば必ず安っぽさが出てしまう。特に見た目が雑だとダウンロード数に影響しがちだ。
これを避けるためには、得意分野で他の要素をごまかす要領の良さが求められる。僕の場合、プログラミングを用いて効果音やグラフィックに様々な変化を付け、地味にならないよう工夫した。このあたりの話は以前の記事にまとめてある。
プシュプの演出面で最もこだわったのはBGMだ。短いドラムフレーズを動的につなげて鳴らし、試合の状況やプレイヤーの行動に応じて変化するようになっている。口で言ってもわかりにくいので動画を見てもらえると嬉しい。
作曲については多少勉強していたものの、プロと競えるような技術は持っていなかった。代わりにドラム演奏の心得が少しあったので(ゲーム内で使っている音は打ち込みだが)、詳しい楽器に絞ることで一点突破を目指した訳だ。
個人的な解釈だが、音程のない打楽器は楽曲の盛り上がりをコントロールする上で最も強力なツールだと思っている。コード進行やメロディに束縛されずに音の量を調節でき、強弱を付けやすい。スネアのけたたましい連打やシンバルの強烈な響きは空気を一変させる。これらの抑揚がプレイヤーの感覚と一体化すれば、強く感情を揺さぶるBGMになると見込んだのである。
同じことをゲーム会社で提案したとして、実行する許可をもらうのは中々難しいのではないかと思う。プロに作曲を任せるのが一般的だし、「打楽器だけでいい感じにします」と主張しても、安っぽい仕上がりになるかもと不安がられるだろう。ある程度リソースがある場合、極端にケチるような提案はそもそも出す意味がない。
個人開発なら、自分自身が「行ける」と自信さえ持てればいい。音を限定することで、通常は聞き逃しがちな打楽器の魅力がクリアになった。自分の好きなものをごり押しし、学習コストを減らしつつ個性を際立たせる。個人開発ならではの提案と言えるだろう。
捨て去り、強化する
ゲーム市場はあらゆる意味で巨大化する一方だ。余程の無茶がない限り、個人開発者が物量で挑めば置いていかれる。かといって手間を惜しめばチープな作品しか作れず、量産されるゲームの海に沈む。
僕が小規模な開発から学んだのは、何かを捨てたぶん、何かが強くなるように選択するのが重要だということ。無駄を削ぎ落とし、個性を尖らせる。選択の自由度の高さが個人開発者の強みになる。
削ぎ落としたからといって作業量が減るとは限らない。実際プシュプのBGMはプログラムの調整にだいぶ時間を取った。存分に個性を発揮できると睨んだからだ。
自分の強みが何かを見極めることで、注力すべきものが明確になる。得意分野では大いに時間を消費し、苦手分野の学習は減らす。ありきたりな作品は減点方式で評価されるが、一点にこだわり抜いた作品は加点方式で見てもらえることが多い。
プシュプの設計は良くも悪くも最小限だ。ストーリー性もないしキャッチーなキャラクターもいない。それどころかタイトル画面すらない。少しでもゲームの起動を速くし、プレイヤーの待ち時間を減らすためだ。
プシュプにおいて最も重要なのは土台となるゲームシステムだ。最後に話をひっくり返して恐縮だが、実は演出なんてどうでもいいとすら思っている。安っぽくならないよう多少の配慮はしたものの、高級なゲームと比べればおまけ程度だ。
他の作業と並行して対戦ルールを何度も見直し、大量のテストプレイを繰り返しながら面白さを追求した。そこさえ圧倒的に「尖って」いれば、今の市場に埋もれない価値が宿ると信じている。
プシュプ(App Store配布ページ)
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