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「現場」に劣等感なんて抱く必要はない

■ 介護現場のデスクワークに対する認識


訪問介護や介護施設などの介護サービス事業を営んでいるが、たまに事務職や介護計画の作成を主としている職員の本音が伺えるときがある。

それは、介護現場から「デスクワークは楽をしているように思われている」という不安を抱いていることだ。

もちろん、介護現場の職員から「事務員は楽でいいですね」なんて言われた経験があるわけではなく、何となく雰囲気や遠回しな言い方から察することがあるのだと言う。

雰囲気や遠回しな言い方の一例を言えば、施設の事務コーナーでパソコンに向かって介護計画を作成しているところに、他の施設職員から「こっちはトイレ介助で手が回らないんだから、リビングの利用者さんを見ていてよ!」といった感じで注意されるらしい。

現場付近にいなくても、事務員が用事あって電話をすると「そっちと違って現場は流動的なんだから、配慮してよ!」と怒られることもあるのだとか。

あるいは「現場に入ればいい。現場の大変さが分かるから」と言ったことも言われるらしい。

もちろん、すべての介護現場がこのように言うわけではないが、実際に一時の感情で上記のような発言をぶつける介護者は少なくない。なお、私は何度も言われてきたし、今も言われる。


■ 現場で働いていないことの後ろめたさ


このようなことを介護現場の人達から言われると、主にデスクワークの仕事をしている人たちは委縮してしまうらしい。

おそらく、現場で働いていない自分たちは悪いような気になるのだろう。
そして、デスクワークは現場よりも楽をしているような後ろめたさを感じるのかもしれない。

私は介護サービス事業の人事の立場にあるため、このようなデスクワーク中心の仕事をしている人たちから「自分も現場をお手伝いしようと思うのですが・・・」という相談を受けることもある。

それに対して私の回答としては「介護現場の仕事に興味があるならば良いと思いますが、現場の人達のご機嫌伺いならばやめたほうが良いです」と伝えている。

あとは「現在の業務に支障をきたさないならば別にいいですよ」という、根本的なことも伝える。理由はどうであれ、雇用契約している本来の役割をそっちのけで別な業務をしたいと言うのは少し違う。

もちろん、必要ならば労働条件を見直して雇用契約も見直すが、おそらくこのような申し出をする人たちの心理はそこまでの話ではないと思う。


■ 現場への劣等感


このような申し出をする理由は、単純である。

現場に対して劣等感があるからだ。
現場よりも自分の仕事が大したことないと思ってしまうからだ。

何だか辛辣なことを言うようだが、このように書いている私自身、現場と現場職員に対して劣等感を持っている時期があった。

管理職や経営の立場にあると、打ち合わせや客先訪問、書類作成や資料や情報収集といった含めたデスクワークになりがちである。私の場合は情報や思考を整理するため、A4ノートにひたすら書いていることもある。

今は周囲を気にせずに平気でやっているが、管理者になりたてのころは「現場の人達と共に汗を流さねば」「現場の人達の視点に立たねば」と躍起になっていた。なるべく現場にいる時間を多くして、自分の管理者や経営としての役割は、夜遅くまで残業しているのが当たり前だと思っていた。

しかし、このように現場で働くことの背景として、私自身が現場および現場職員に対して上記のような劣等感を持っていたからだと、今なら分かる。


■ 現場に劣等感を抱く理由


なぜ現場に対して劣等感を持つのかと言うと、1つは現場というのは事業において売上が立つ業務であるからだ。商社における営業職が現場であると言えばご理解いただけるかもしれない。

それに、現場は仕事として成果が分かりやすい。それは商品であったりサービスであったり異なるが、お客さんと直接やり取りする現場の活躍は、事業そのものを支えていると言っても過言ではない。

また、もう1つの理由としては、主に現場で働く人たちが「現場は大変な仕事だ」と喧伝していることもある。
上記のように「現場にいれば大変さが分かる」といったマウントをとるような発言を繰り返し言われると、まるで現場というものにスゴイ価値があるかのうように錯覚する。
一方、相対的に見て、その職場において現場以外の業務をしている人たちは何だか大変ではないように感じてしまう。お客さんと直接接する機会も少なく、売上を立てるわけでもない立場にそこまで価値があるのかと疑問に思ってしまう可能性もある。

こうなると、職場におけるヒエラルキーとして、まるで現場の人達が1番すごくて、それ以外はまるで発言力がないかのようになってしまう。これは一種の「刷り込み」から生ずるものではないか?


■ 事業は「総合力」で成り立っている


しかし、これは大きな間違いである。

もちろん、現場の活躍によって事業が成立しているのは間違いない。だからと言って現場が偉いとかそういう話ではないし、ましてや現場にいるからといってそれ以外の役職や部署の人達にマウントをとるのは品位がない。

そもそも、現場というのは事業において役割の1つである。
そして、現場以外の事務職なども役割の1つである。
それぞれが役割を果たすからこそ、事業および組織が成立する。

それを現場にいないことに後ろめたさを感じるからといって、自分も現場で働くことで免罪符を得るような真似はしないほうが良い。

むしろ、そんなことを考えている暇があるならば、自分の役割にちゃんと目を向けて真摯に取り組むことのほうが重要だ。

そもそも、現場優勢でそれ以外は大した仕事をしていないと言うのは、一部の現場職員であることが多い。それをいちいち気にする必要はない。

また、「現場はオフィスと違って流動的」とか言う人もいるが、ハッキリ言えば、どの仕事も流動的である。デスクワークだって外部からランダムに問い合わせがあるし、客先から仕様変更などあれば発狂しながら今やっている仕事を方向転換させなければいけない事態もある。
しかし、それを現場の人達にいっても理解されないことを知っているから、黙ってデスク上で忍耐強く自分の仕事に励むのだ。そうしないと、事業の要である現場の人達の仕事に支障をきたすからだ。


――― 何も、現場の人達は物を知らないと言いたいわけではない。
どちらかと言えば、デスクワークなどの現場以外の役割を持っている人たちが抱きがちな、現場への劣等感や後ろめたさの不要性を理解して欲しいと思った次第だ。

常に目を向けるのは自分の役割である。
時には相手が現場の人でも「今はこの仕事に専念していので」と突っぱねることも必要である。
生物として自分の縄張りを主張することもあって良い。

一方、ちょっと現場に興味があると言う意味で「たまには現場で働いてみたい」と思うならば飛び込んでみても良いだろう。それで現場がすべて分かるわけではないとしても、自分の視点が広がることは間違いない。

周囲の意見に乗せらることはあるだろうが、常に「自分の役割は何か?」を誤解せずにいれば、ちょっと何か言われてムカついても平気な顔でスルー出来るようになる。それもまた大人のあり方だと思う。

ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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